いなたくんへ ディストピア小説と言えば、代表的なものとしてジョージ・オーウェルの『一九八四』(1949)が思い浮かぶ。特に、監視技術の発達した昨今では、すわ『一九八四』の実現であると引き合いに出される。 ところが、現代中国の監視社会化を分析した『幸福な監視国家中国』(2019)では、中国の現状は、『一九八四』よりもむしろ『素晴らしい新世界』(1932)のそれに近いと指摘する。 また同書は、「『一九八四』は後継作品を挙げることが難しい」が、「『素晴らしい新世界』の世界観がその後の多くの作品に受け継がれている」とも指摘していて興味深い。 現代の監視社会化は、「ハイパー・パノプティコン」や「ポストモダン的監視」と呼ばれ、権力による一方向的監視とは異なる社会を現出させようとしている。ナッジや行動科学的経済と呼ばれる、人に無自覚的に行動変容を促すその方法は、中国に特有の話では決してなく、いまや世界的