*矢口高雄・耳目というセンス* 中央公論社で数年前に刊行された「マンガ日本の古典(現在文庫版が刊行中)」で、矢口高雄は「奥の細道」を担当し、冴えた筆を振るった。その著者後書きの中で、このような内容を語っている。 平泉の「夏草や 兵どもが 夢の跡」の段になって、僕は困ってしまった。芭蕉が詠んだ「夏草」は、はたしてどの植物なのだろう・・・ このくだりを読んだ瞬間、もう敬服するしかなかった。 「マタギ」「釣りキチ三平」等の名作をものし、血の通った自然を書かせたら右に出る者のない巨匠の、なんという真摯さ、妥協を許さない作画への姿勢・・・ そうして描かれた「奥の細道」の「平泉」の背景は、見事な「トーホグの夏草」であり、月山は清々しい雪の霊峰であり、山寺はジリジリとした山形の夏だった。 矢口高雄は秋田県の山村の出身。隣の県に棲む私は、やはり植生などが似通ったところに住んでいるせいだろうか、氏の描く自然