「誰もがそうであるように、やりたいことができずにうんざりしていた。そもそもやりたいことが何なのかわからないという状況もあった。つまり、最悪だった。」 山際淳司「ポール・ヴォルター」より 平成三十年になろうとしていた。ここは師走の成田空港。人々は心なしか早足で歩いている。その中に一人の男の姿があった。 ぱっと見たところひどくやせ細り、弱々しい感じを受ける。足取りもどこか頼りなく不安げな様子だ。 格安航空のカウンターは無人化されていて誰もいない。意を決したかのように《彼》は歩みを進めていった。 バブル崩壊後に訪れた就職氷河期は、若者の将来を氷のように閉ざしてしまった。ある者は派遣社員として、ある者はフリーターとして社会の荒波に揉まれることになった。 今日より明日が良くなるとは思えない時、若者達にはすがるものが必要だった。 ”ブログ”と呼ばれるインターネットに日記を投稿するシステムはそんな中で誕