小学3年生の頃、教室でとなりの席に座っていた女の子が、漢字の「もんがまえ(門)」を省略して書くのを見た。左右の離れている部分を一本線でつないで、真ん中にちょこんと縦棒を1本入れる、あの省略形である。初めて見た瞬間、「オトナっぽいな……」と思った。同級生ながら「この人は知的に成熟しているぞ」と、尊敬や憧れのような気持ちを抱いたのを覚えている。 省略形のオトナっぽさには魅了されたが、同時に、私自身はあえて省略形を導入せずにやっていこう、という決意を抱いていた。たしかに省略もんがまえは便利だ。さらには、問、開、聞など応用範囲もかなり広い。おそらくあと半年もしないうちに、この省略形はクラス内での隆盛をきわめ、「門」を書き順に沿って正しく生徒の方が少数派になっていくだろう。省略もんがまえは確実にブレイクすると私は踏んだ。 ならば、むしろ「一度も『門』を省略して書いたことがない」という記録をどこまで伸
![もんがまえ省略禁止令|伊藤聡](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/bb629da0367a6a6e0fca49264583648558f1593f/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fassets.st-note.com%2Fproduction%2Fuploads%2Fimages%2F42057121%2Frectangle_large_type_2_27effd6fdf171cf4543c4e6dab700f75.png%3Ffit%3Dbounds%26quality%3D85%26width%3D1280)