<アメリカでのドナルド・トランプ人気、欧州の極右政党の台頭、あげくにイギリスのEU離脱──一時は世界を席巻しそうな活気を誇った民主主義が危うくなり始めている。最大の理由は、自由な社会にはデマゴーグに乗っ取られやすい弱点があるからだ> 今は昔――といっても1990年代のことだが、多くの優秀で真面目な人々が、これからは自由主義的な政治秩序の時代で、必然的にそれが世界の隅々に浸透するものと信じていた。アメリカとそアメリカと同盟を組む民主主義国はファシズムと共産主義を打倒し、人類を「歴史の終点」まで連れてきたはずだった。 「共同主権」の壮大な実験場だったEU(欧州連合)では、事実ほとんど戦争がなくなった。多くのヨーロッパ人は、民主主義と単一市場、法の支配、国境の開放という独自の価値観を掲げたEU文民の「シビリアン・パワー」が、アメリカ流の粗野な「ハード・パワー」と同等かそれに優る成果を上げたと信じ