mrkmhiroshiのブックマーク (133)

  • 『芸術・無意識・脳』 科学と芸術の対話が人間の本質を明らかにする - HONZ

    1900年前後のウィーンにはあらゆる分野の才能を引き寄せる力があった。哲学ではクルト・ゲーデルやルートヴィヒ・ヴィドゲンシュタイン、音楽ではグスタフ・マーラーやベートーヴェン。その他の芸術や自然科学分野でも、挙げきれないほど多くの偉人たちがこの街に集まっていた。特筆すべきは、その天才たちが個々の分野毎に活動していたのではなく、科学者・作家・芸術家の垣根を越えて混ざり合っていたという事実である。異なる領域に確かな根を持つ頭脳同士のぶつかり合いは、「美術と科学を結び付けようとするパイオニア的な試み」だったといえ、人類に大きな果実をもたらした。 記憶の神経メカニズムに関する研究でノーベル医学生理学賞を受賞した脳神経科学者であり、1929年にウィーンで生まれた絵画コレクターでもある著者・カンデルは、この時代のウィーンが「人文科学と自然科学の開かれた対話をどうすれば実現できるのか」を私たちに示してく

    『芸術・無意識・脳』 科学と芸術の対話が人間の本質を明らかにする - HONZ
  • 『反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』 ブラック・スワンは予測できないが、備えることはできる - HONZ

    グローバル化の深化に呼応するように、世界の不確実性が増している。大勢の予想に反してトランプ大統領が誕生し、未来永劫続いていくかと思われたシャープや東芝のような大企業までもが突如として存亡の危機に陥り、多くの人が憧れる花の都パリでも悲劇的なテロが発生した。当たり前のものと考えていた日常が、どれほど脆弱なものなのかを思い知らされる。ある日突然襲い掛かる不確実性に、わたしたちは無力なのだろうか。 このは、そんな不確実な世界を生き抜くための知恵を与えてくれる。その知恵とは、より多くのデータを集め、最新のAIを駆使し、より正確に未来を予測することではない。リスク研究の専門家である著者タレブは前著『ブラック・スワン』でも、 「重大で希少な事象のリスクを計算したり、その発生を予測することはできない」と喝破している。1000年に1度の大地震のように稀にしか起こらず致命的に大きな影響を与えるイベントは、予

    『反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』 ブラック・スワンは予測できないが、備えることはできる - HONZ
  • 『大不平等』 グローバリゼーションは格差をもたらしたのか? - HONZ

    グローバリゼーションにブレーキがかかり始めた。欧州での右派政党台頭、トランプの保護主義的政策だけでなく、これまで移民を優遇してきたシンガポールやオーストラリアなどでも就労ビザの厳格化が進み、国境を隔てる壁は日々高くなっている。世界は、グローバリゼーションの何を恐れているのか。絶望的なほどの格差を生み出した真犯人は、グローバリゼーションなのか。グローバリゼーションの流れをとめることで、誰が幸せになり、誰が不幸になるのか。 意外に思われるかもしれないが、1988年から2008年におけるグローバリゼーション最大の「勝ち組」は中間層だった。ここでいう中間層とは文字通り、世界の所得分布で50パーセンタイルに位置する人々のことを指す。20年で実質所得を大きく伸ばしたこの中間層の多くは中国、インドやタイなどに暮らすアジアの新興経済圏の人たちであり、日のような先進国に暮らす人のほとんどは当てはまらない。

    『大不平等』 グローバリゼーションは格差をもたらしたのか? - HONZ
  • 『「維新革命」への道 「文明」を求めた十九世紀日本 』 日本は西洋に何を求めたか - HONZ

    グローバリズムが加速度的に世界を覆っていくにつれ、世界各地で文明の衝突が激しさを増している。イスラム過激派によるテロ活動は収束する気配を見せず、北朝鮮の孤立化はより深刻なものとなり、アメリカトランプ政権は他文化との壁をより高いものにしようとしている。多文化が平穏に共存する道を、人類は見つけることができるだろうか。それとも、文明の衝突は歴史の必然なのだろうか。 書は十九世紀日における思想の歴史をたどることで、鎖国によって長年閉じられていた日がどのように「開化」したのか、思想家たちは新たな価値観の奔流をどのように受け止めたのか、そして市井の人々がどのようにこの大きな変化に向き合ったのかを明らかにしていく。最新の研究成果を引き、新たな視点から当時の思想家たちの言葉を読み解くことで、これまで「維新革命」の常識と考えられていたものが、実態とは異なる神話に過ぎないことを教えてくれる。日は西洋

    『「維新革命」への道 「文明」を求めた十九世紀日本 』 日本は西洋に何を求めたか - HONZ
  • 『平均思考は捨てなさい』 みんなちがって、みんないい - HONZ

    2017年5月に経済産業省が若手・次官レポートとして発表した「不安な個人、立ちすくむ国家」は、「結婚して、出産して、添い遂げる」、「正社員になり定年まで勤めあげる」という「昭和の標準的人生」が21世紀には一般的ではなくなったため、この標準に基づいて設計された日の制度や価値観が現代社会のあちこちに大きなひずみをもたらしているのだとしている。しかしながら、1950年代生まれにおいても定年まで正社員として勤めあげる人は34%に過ぎなかったという。彼らの人生が標準的なのだとすると、過半数のはずの66%の人々が歩んだ人生は例外的なものだったということだろうか。そもそも、一度しかなく、それぞれにバラバラのはずの人生の“標準”とは何を意味するのか。 『平均思考は捨てなさい』は、わたしたちの思考がどれほど平均や標準に縛り付けられているか、そしてその呪縛のためにどれほど多くの可能性が見過ごされてしまってい

    『平均思考は捨てなさい』 みんなちがって、みんないい - HONZ
  • 『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』 現実的な理想主義者たちが本気で宇宙を目指した - HONZ

    それは、あらゆる面で無謀なレースだった。 政府の支援を受けずに3人乗りのロケットを製造し、宇宙の入口へ2週間以内に2回到達した最初のチームに、1000万ドルの賞金が与えられる Xプライズと名付けられたこの国際賞金レースが発表された1996年時点では、政府の関わっていないロケットなど影も形も存在していなかった。宇宙船どころか「音速以上の有人航空機」を民間企業が製造した例すらなかった。高度100km以上と定義された宇宙の入口へ到達するためには音速の何倍もの速度が必要となるという一点だけを見ても、その難しさがうかがい知れる。大気圏への安全かつ効率的な再突入方法などの技術面だけでなく、ロケット打ち上げのために取得すべき許認可が数多くあり、乗り越えるべきハードル、考慮しなければならない事項は山積みである。 特筆すべきは難易度の高さだけではない。懸けられた1000万ドル(約11億円)という賞金もまた規

    『Xプライズ 宇宙に挑む男たち』 現実的な理想主義者たちが本気で宇宙を目指した - HONZ
  • 『ダイエットの科学』 ダイエットを始める前に先ず読むべき一冊 - HONZ

    ダイエットは現代人の最大の関心事の一つだ。多くの国で肥満が野火のように広がっていくに連れ、ありとあらゆるダイエット方法が世界中で発明されてきた。あまりにも大量のダイエットが開発されたため、その中から相反する2つを見つけるのは難しいことではない。脂肪の摂取を控えるべきだと訴えるダイエットもあれば、脂肪は好きなだけ摂ってよいというものもある。三を規則正しくべることを推奨する方法もあれば、一日一の方がより健康的なのだと謳うものもある。一体全体、わたしたちはどのようなダイエットをするべきなのか。 ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝学教授である著者ティム・スペクターは、巷にあふれる多くのダイエットが神話に過ぎないことを、科学の力で明らかにしていく。政府が推奨する公的な栄養の摂取量ですら、そのほとんどには明確な根拠がないというのだから、どれほど裏付けのない手法が流布しているかは推して知るべしであ

    『ダイエットの科学』 ダイエットを始める前に先ず読むべき一冊 - HONZ
  • 『ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA』 SFを現実に変換する科学集団 - HONZ

    1962年10月16日、ソ連が密かに核ミサイルをキューバに設置していることを発見したアメリカ大統領ケネディは、ソ連首相フルシチョフにミサイルの撤去を迫り、拒否された。この日からフルシチョフがミサイル撤去の決断を下すまでの13日間ほどに、人類が核兵器による全面戦争に近づいたことはない。キューバ危機で核ミサイルが攻撃に用いられることはなかったが、実はこの危機の最中に核ミサイルは4発も爆発していた。その事実が世間に知られることがなかったのは、この爆発が宇宙空間で行われていたからだ。 4発中2発はアメリカによって、残りの2発はソ連によって行われた実験だった。わざわざ宇宙空間で核爆発させたのは、クリストフィロス効果を研究するため。1957年にソ連が打ち上げた人工衛星によるスプートニク・ショック以来、アメリカはソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)から自国を守る方法を探し続けていた。そして、無名の科学者

    『ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA』 SFを現実に変換する科学集団 - HONZ
  • 『日本ノンフィクション史 ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで 』 虚構と現実の境界 - HONZ

    ノンフィクションとは、なんともとらえにくいジャンルだ。字義通りにみればそれは、フィクションではないものなのだが、もう一歩踏み込んで「フィクションではないもの」とはつまりは何なのかと考えてみよう。「ノン」という否定形ではなく、肯定系でその存在を描写しようとすると、途端にその輪郭はあいまいなものとなる。立花隆ですら「ノンフィクションとは何か、ノンフィクションとはどうあるべきかという議論はやり始めるときりがない」と語るほど、ノンフィクションを定義することは難しい。 書は、日でノンフィクションという存在がどのように生まれ、何を伝えてきたのかという歴史を振り返ることで、ノンフィクションが何であるのか、どうあるべきかという難問を解く糸口を与えてくれる。その歴史を知れば知るほど、ノンという接頭辞だけで簡単に切り離すことのできない、フィクションとノンフィクションの深い絡み合いが明らかとなる。その過程で

    『日本ノンフィクション史 ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで 』 虚構と現実の境界 - HONZ
  • 『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』 ドリームのないアメリカ - HONZ

    2016年6月に出版された原書はアメリカでベストセラーとなり、世界中で高い評価を受けた。英エコノミストは「2016年に出版されたの中で、アメリカを知るために最も重要な一冊」と評している。1984年生まれの若き白人のアメリカ人である著者J.D.ヴァンス自身が述べるように、彼はイェール大学ロースクールを卒業し経済的成功を収めてはいるものの、「人生で何か偉業成し遂げたわけではない」。そんなヴァンスの人生を綴った書が大きな話題を呼んだのは、彼の故郷に暮らすアメリカの白人たちの姿がトランプ支持者のそれとピタリと重なったから。トランプ現象を支える人々の実像を追い求めて、多くの人がこのを手に取ったのだ。アメリカの繁栄から取り残された白人たちの現実は、多くのアメリカ人たちにとっても、これまで知ることのなかった驚くべきものだった。 ケンタッキー州北東部出身であるヴァンスの家族の祖先は、アイルランド島北

    『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』 ドリームのないアメリカ - HONZ
  • 『1984年のUWF』 最強という幻想 - HONZ

    プロレスラーは当は強いんです 総合格闘技黎明期の1997年、今や世界最大の格闘技団体となったUFCが初めて日で開催した大会アルティメット・ジャパンで優勝した桜庭和志は、日人選手の勝利に熱狂する観客にこう語りかけた。恵まれた体躯を厳しいトレーニングに晒し、筋肉の鎧をまとったプロレスラーが弱いはずがない、何を当たり前のことを、と思うかもしれない。ところが90年代には、プロレスラーの“強さ”に大きな疑問符が突き付けられていた。 プロレスラーは真剣勝負では弱いのではないか、ショーの世界にどっぷり浸かった彼らの技は格闘技の世界では通用しないのではないか。力道山に始まりアントニオ猪木が幾多の異種格闘技戦で最大限にまで膨張させたプロレス最強論は風前の灯火だった。だからこそ、タイガーマスクに憧れ、プロレスラーとしてそのキャリアをスタートさせた桜庭はプロレスラーは当は強いのだと宣言した。 その後の桜

    『1984年のUWF』 最強という幻想 - HONZ
  • 『ダメな統計学 悲惨なほど完全なる手引書』で科学の基盤をより確かなものにする - HONZ

    世界は数字であふれている。政治家の支持率から健康品が病気のリスクを下げる確率まで、ニュースや広告を介して、新たな数字が次々とわたしたちに届けられる。しかしながら、その数字がどのようにつくられ、どのような意味を持つのかを真に理解することは容易ではない。特に、数字の送り手に悪意がある場合には注意が必要だ。50年以上前に出版された世界的ベストセラーの『統計でウソをつく法』で知られるように、統計を恣意的に用いれば、多くの人を欺くことはそれほど困難ではないのだ。 それでは、きちんとした科学研究室・大学によって裏付けられたデータならば無条件で信用できるのだろうか。そうではない、と統計学の講師でもある著者のアレックス・ラインハートはいう。科学者たちに悪意があり、統計学を歪めて使用しているわけではない。科学者たちもまた、わたしたち一般市民と同様に統計学をきちんと理解していないというのだ。 科学者は、統計

    『ダメな統計学 悲惨なほど完全なる手引書』で科学の基盤をより確かなものにする - HONZ
  • 『ブレイクスルーへの思考』と『つながる脳科学』で知の広大さと深遠さを堪能する - HONZ

    東大の異端児的存在である東京大学先端科学技術研究センター(先端研)に所属する11名の研究者へのインタビュー集だ。「これまでの大学の殻を破るまったく新しい研究機関」として設立された先端研だけあって、インタビュイーの研究分野は多岐にわたる。ある者は情報と社会の関わり方のあるべき姿を語り、ある者は産学連携を推し進めるために必要となる科学者の姿を説き、またある者は障害者自身が主体となって障害について研究を進める「当事者研究分野」がどうのようなものかを自身の半生とともに示す。縦横無尽に展開されるさまざまな分野の話にも読者がおいていかれることなく、研究の最前線の知的興奮を堪能できるのは、先端研の所長がインタビュアーとなり、研究者たちの言葉を分かりやすくわたしたちの社会と関わりのある形に翻訳しているからだろう。 生物学でのシミュレーションシステム開発には1つの大きな潮流がある。それは、軍や政府ではなく、

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  • 『教育劣位社会 教育費をめぐる世論の社会学』教育には税金を使いたくない日本人 - HONZ

    自然科学分野で多くのノーベル賞受賞者を輩出し、公立中学校に通う生徒の7割以上が学習塾に通う日を、著者は教育劣位社会と呼ぶ。それは、日のGDPに占める公財政教育支出の割合がOECD諸国の中で最低水準にあり(一般政府総支出に対する割合でも同様)、国民の世論も限りある財源を教育に配分すべきだとは考えていないからだ。 書は、教育学と経済学の狭間に埋もれてしまいがちな教育費・費用負担・財政・税金にまつわる「教育経済学」を、世論という切り口から追究していく。そのため書の焦点は、公教育のあるべき姿の模索や個別の教育施策の投資効率検証ではなく、医療や介護など教育支出以外とのトレードオフ関係の中で、日人がどの程度教育を重要視しているかを確かめることに当てられている。教育にまつわる世論を深堀りすることで、世論がどのように形成されるのか、世論はどれほど不安定で移ろいやすいものなのか、そして世論と政策

    『教育劣位社会 教育費をめぐる世論の社会学』教育には税金を使いたくない日本人 - HONZ
  • 『実験国家 アメリカの履歴書』 統合と多元化に揺れ動く大国 - HONZ

    過激な発言や過去のスキャンダルのために共和党候補にすらなれないと思われていたドナルド・トランプが、世界最強国家アメリカの次期大統領となることが決まった。リーマン・ショックに端を発する不況が、世界を不安で包み込もうとしていた中、若く聡明なマイノリティのバラク・オバマに希望を託した人々が、8年後の今は、対極とも思える人物をリーダーに選んだのである(その選挙制度のため、得票数自体はヒラリーが多かったけれど)。 アメリカは、この8年間で決定的に変わってしまったのだろうか。それとも、極と極の間で揺れ動くことは、もともとアメリカが持っていた性質なのだろうか。移民の国をアイデンティティとするはずなのに移民排斥活動が盛んになったり、黒人大統領が誕生して統合へ向かうかと思えば黒人差別をめぐる暴動が多くの都市で起ったり、数え切れないほどのノーベル賞受賞者を産む科学大国なのに未だに進化論を学校で教えることに反対

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  • 『進化の教科書 第1巻 進化の歴史』 進化入門の決定版 - HONZ

    ハーバード大学やプリンストン大学をはじめ、全米200以上の大学で採用さている教科書『Evolution: Making Sense of Life』の邦訳3分冊の第1巻である。「教科書」といっても、書は議論の余地のない事実が淡々と積み上げられた退屈なものではない。原著者は『ウイルス・プラネット』等で知られる大人気サイエンスライターのカール・ジンマーと『動物たちの武器』のモンタナ大学教授ダグラス・J・エムレンであることからも分かるように、科学読み物としての楽しさを保ちながら、確かな知識を与えてくれる内容となっているのだ。またAmazon.comでは『Evolution』の価格は12,000円以上と高価だが、この第1巻はフルカラーの図を多く含みながら、1,680円(税別)だというのだから買うしかない。さらに、邦訳者の1人には、『化石の生物学者』の著者であり『ネアンデルタール人は私たちと交配し

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  • 『「移動」の未来』はわたしたちの未来そのものだ - HONZ

    小雨降る冬の日、空腹を満たすために凍える外気にその身をさらす必要はない。ネットでピザをオーダーすれば、数十分で熱々のチーズがあなたの口元にやってくる。ピザが届くまでの数十分も、お気に入りのコーヒー豆で淹れた一杯があれば苦痛ではない。世界中のあらゆる動画や脳を刺激するゲームを与えてくれるスマートフォンが手元にあるのだから、暇を持て余すことなどない。ネットで買えるものより、ネットで買えない物を探す方が難しく感じる現代においては、50年前の人なら想像すら難しかったような贅沢が、部屋から一歩も出ることなく手に入る。 電子で繋がりあう21世紀には、物質の移動が重要性を失っているかのように錯覚するかもしれないが、もちろんそうではない。むしろ、わたしたちの生活はより多くの物の、より長い距離の移動に依存している。コーヒー豆はエチオピアからの長旅の末にあなたの部屋に辿り着いたのであり、30分で届けられたピザ

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  • 『未来政府』と『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』で知る民主主義の理想と現実 - HONZ

    なぜ人と政府との関わりは希薄になったのか 元サンフランシスコ市長であり現カリフォルニア州副知事である著者ギャビン・ニューサムは、ずっと疑問に感じていた。SNSで頻繁にメッセージを発信し、ポケモンGoで何百キロも歩いてモンスターを追いかけるアクティブな人々が、なぜこれほどまでに政治に関心を示さないのか。2011年にロサンゼルスで行われた重要な教育・環境に関わる住民投票の投票率はわずか12%に過ぎなかったことを、ギャビンは当然のこととして受け流すことはできなかった。 無関心の原因は政府や政治家にある、とギャビンは考える。新たなテクノロジーが人々の生活を驚くべきスピードで変化させているのに、「現在の政府は1973年だったら最先端だったろうと思える機能しか備えて」おらず、市民の関心を十分に引きつける存在になっていない。書は、そんな現状を変えるためにテクノロジーにできることについて、ギャビンが多く

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  • 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』 認知・農業・科学 - HONZ

    わたしたちは孤独だ。人口が70億を超え、世界中に生息域を広げたとしても、現在の地球上にはホモ属に分類される種はサピエンス、つまり現生人類であるわたしたちだけ。ライオンにはジャガーやトラのように同じヒョウ属に分類される仲間がいるのに、サピエンスは系統樹上で一人ぼっちなのだ。 かつて、人類は孤独ではなかった。そもそも「人類」とはホモ属に分類されるすべての動物を指す言葉であり、人類には多くの種が存在していた。東アフリカに人類が誕生して以来、ヨーロッパ及びアジア西部にホモ・ネアンデルターレンシスが、ジャワ島にホモ・ソロエンシスがいたように、あらゆる場所に多くの種が分布していた。ホモ・エレクトスのようにサピエンスよりも遥かに長い期間にわたって生き延びた種もいた。 なぜ人類の中でサピエンスだけが生き残り、文明を築き上げることができたのか。歴史学者である著者は、人類誕生の瞬間から歴史を振り返ることで、こ

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  • 『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』 グーテンベルクがインターネットの生みの親? - HONZ

    体重わずか数グラムのハチドリは、ほとんどの鳥が真似することも困難なホバリングをすることができる。空中の定位置に留まるためには、羽を打ち上げるときも打ち下げるときも揚力を発生さるような、回転可能な羽を進化させる必要がある。ハチドリがこの独特なデザインの羽を持つようになったのは、花蜜を吸うためであると考えられる。ホバリングは、花蜜を取り出すために威力を発揮し、ハチドリの小さな身体に十分な栄養をもたらすのだ。 ハチドリの羽の進化を促した花蜜は、顕花植物と昆虫の共進化の産物である。花は花粉を昆虫に運んでもらうために色やにおいを進化させ、昆虫は花からより多くの花粉を取り出して他の花に受粉させるような装備を進化させた。この植物と昆虫の共進化の果てに、高密度なエネルギーをもつ花蜜が生まれ、その花蜜を栄養源とするハチドリへと至ったのだ。 著者は、このようなイノベーションの連鎖を「ハチドリ効果」と呼ぶ。これ

    『世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史』 グーテンベルクがインターネットの生みの親? - HONZ