宮本武蔵《枯木鳴鵙図》江戸時代初期, 紙本墨画, 一幅, 125.5×54.3cm, 重要文化財, 和泉市久保惣記念美術館蔵 無許可転載・転用を禁止 剣豪の水墨画 細い枯れ枝の先端に一羽の野鳥が止まっている水墨画がある。小さいながらも鋭いカギ状の嘴(くちばし)をもち、捕食を狙う集中した視線が張り詰めた気魄を感じさせる。権力を誇示するような鷲や鷹などの大きな猛禽ではなく、鵙(もず)、そして枝振りの立派な松ではなく枯れ木。しかし、余白の広い画面にわびしさはなく、緊張感の漂う小宇宙が掛軸となっている。作者は絵師ではない。二刀流の剣客で武道書『五輪書(ごりんのしょ)』を記したあの宮本武蔵である。 武士の余技では納まらない、剣の達人の研ぎ澄まされた水墨画が《枯木鳴鵙図》(こぼくめいげきず)(和泉市久保惣記念美術館蔵)なのだ。「一芸に秀でる者は多芸に通ず」と言われるが、武蔵にとって水墨画はどのような意