2012年2月のある晩、凍てつく寒空の下にも関わらず、ベルリン中心部にあるアウグスト通りは多くの人で溢れた。彼らのお目当ては新しく誕生したギャラリー・コンプレックスのオープニングを訪れることだ。建物の前には入場を待つ人だかりができている。ベルリンでは珍しい行列だが、その理由も納得できるだろう。なぜならここではコンプレックスのオープニングだけでなく、アート・シーンにおけるミッテの復活に立ち会えるかもしれないからなのだ。 ベルリンの壁が崩壊した頃、旧東ドイツに属していたアウグスト通り周辺には多くの空き屋があったという。そこには使用可能なスペースが多数あり、好奇心溢れる人々にとっては、街の中心部に突如現れたフロンティアだったに違いない。現在このエリアはミッテ地区とよばれており、日本語では「中心」の意味を表す場所だが、1990年代に無数のギャラリーがこの新天地に殺到したため、ミッテはまさに文字通り