台湾ではこの夏、あるメディアグループとそのオーナー経営者への怒りの声がうねりとなって広がり、社会運動へと発展した。人々がSNSを通じて連帯し、街頭行動を通じて抗議の意志を表明したのは、中国と深い利害関係を持つ事業家・蔡衍明氏 1 と、同氏の所有支配下にあるメディア集団「旺旺中時グループ(以下、旺中グループと略)」であった。本稿ではこの「反・旺中グループ」運動の経緯と背景をまとめ、メディア業界での寡占化の進展と、強大なパワーを持つ企業家の台頭のなかで揺れる台湾社会の姿を紹介する。 【旺旺グループによるメディア進出の経緯】 中国時報グループは、台湾有数の新聞『中国時報』『工商時報』等を発行する台湾の老舗メディア集団であった。同グループは、2000年代前半に衛星テレビ局の中天電視、地上波テレビ局の中国電視を傘下におさめ、クロスメディアグループへと発展した。しかし、台湾のメディア業界の特徴である事