「10年後のクリスマス、お姉ちゃんは1人で読書をしてて、唯ちゃんは彼氏とディズニーランドに行ってそうね」 家族で車に乗っているとき、助手席に座る母は笑いながら父にこう言った。特別な感情が芽生えたわけではない。左手に見えるシンデレラ城を眺めながら「私は社交的で姉は暗いってことを茶化してるんだな」と思っていた。 私が7歳の夏から母は病床につしてしまったので、おそらくこれは6歳くらいの話。 この些細なやりとりが、唯一覚えている母の言葉だ。母はもっと美しい言葉を遺してくれたはずだけれど、忘れてしまった…。 彼女が他界してからまもなく20年が経つ。記憶の中に留めておきたかったけれど、消えてしまったことはたくさんある。シーンを思い出すことはあるけれど、言葉までは遺ってくれなかった。 とはいえ、遺るならもうちょっとエモーショナルな言葉がよかった。しかも、フタを開けてみれば姉はリア充、私は物書きになってい