大学院の授業で聖書(特に新約聖書)写本学を取るとすぐにコプト語というのが目に付く。しかも、二つの方言がある。いや、実際はさまざまな方言や時代による違いがあるのだが、聖書学ではサヒド方言(Sahidic)とボハイラ方言(Bohairic)が特に有名なのだ。 新約聖書本文は確かにギリシア語ではあるが、ほぼ完全なギリシア語聖書で現存する最も古いものでも4世紀を更に遡ることはない。それより古いものは断片にすぎない。とすると、4世紀以前の他の言語に訳されたものも研究には大事な資料になってくる。そのような他の言語は、シリア語、アルメニア語、グルジア語などであるが、コプト語も非常に重要である。 コプト語の文字は基本的にはギリシア語が土台になっている。それはコプト語がエジプトの民衆の言葉であったが、アレクサンドリアを中心とした都会では支配者層のギリシア語が公用語であったため、民衆の言葉を書き写すのにギリシ