ホーム > 映画 > 『赤い影』すべての幻視者に贈る至高の美とサスペンス。(1983 / イギリス・イタリア 監督 ニコラス・ローグ 原作 ダフネ・デュ・モーリア) 赤いフードの人物が振り返る最後の瞬間、そのたったひとつのシークエンスへの過程として本作は作られている。そのためだけに各シーンに「赤色」のコードを埋め込み、ヴェネチアを舞台に歪んだ物語が織り成される。そのバロックな脚本は暗喩と隠喩に満ち満ちたものだ。それは映画を読み解くという、娯楽の原点にして頂点を改めて我々に認識させ、恐怖と最も近しい不安を喚起する。 間違いなく絶叫してしまう恐ろしいシーンはたったひとつしかないのに、全編に渡り恐怖映画の怪奇と哀しさが支配している。本作は、我々に語られなかった謎を幻視させようとしているのだ。 ジョンとローラの夫妻は水難により娘クリスティーンを亡くしていた。ヴェネチアに訪れた二人はふとしたきっ