誘惑的なあまりに誘惑的な書き方があるということは、きっと誘惑される人がいるのだろうし、誘惑に抵抗する人がそこに佇んでいるのだろう。誘われてもそこに場所はないのだ。場所がないということがきっと私たちを誘惑し、その誘惑に抵抗させる。 通路をまっすぐ歩くしかない高級百貨店の反対側には、人をよけながら斜めに歩く安売りスーパーがあって、その先には暗い夜ばかりが広がってときに強い風が吹いたが、何も起こらなかった。強い風が吹いているのに何も起こらないことを信じることができるだろうか。通路は斜めに歩くほうがいいと私は思う。 花は見ない。桜の花の話をしてくれる知人がいて私は幸福なのだろうが、私は、ラジオを聴かないように花を見ない。ラジオからは音楽が流れてくるからだし、花からは……花からはいったい何が流れてくるだろうか。 4月1日のテレビドラマ『SPEC』の話をちょっとだけすると、瀬文のために感覚を失った当麻