ずいぶんと昔ベルギー住まいだった頃、柄にもなくパリに拠点を置くイラストレーターのエージェントに名を連ねていたことがあった。他のメンバーはエール・フランスだとかエヴィアンだとかの大きな仕事をもらってスポーツカーなんかをビュンビュン乗り回していたけれど、こちらにはとんと仕事が来なくって中古の自転車をギコギコこいでいた。 ある日のことエージェントのボスが「お前のイラストは強すぎて広告の仕事にはあんまし向かない。が、絵はいいので個展をやってみないか」と電話をかけてきた。サン・マルタン運河沿いに知り合いが本屋をやっていて、ギャラリーも併設してるのでそこに掛け合ってみるという。 数週間後、その本屋を訪ねることになった。主人はパリのインテリを絵に描いてオルセーに飾ったような一回り年上の男だったけど、なんでか気が合ってさっそく個展をやることになった。 個展最初の日。オープニングのパーティが始まるとゆっくり