◇いま直面する「経済学第三の危機」 伊東光晴 (京都大学名誉教授) 二つのことからはじめます。 第一は話題になったトマ・ピケティのことです。彼はアメリカの経済学の現状を批判して歴史経済統計の世界に入り、先進国の不平等批判への道に進みました。アメリカの経済学の主流は、人間行動についての仮説の上に数理モデル──人によってはゲーム理論を用いた数理モデルを作り、展開し、次々に新しい定理を生むというもので、その仮説が、現実に照らして真であるかを問いません。 もちろん、その仮説が現実に照らして真であるかを問うたのは、1930年代末の「オックスフォード調査」(オックスフォード大学経済調査グループによる価格、利子率などの変化と投資、企業行動などとの関連性を調べる実態調査)などがありますが、これらを無視するのが、アメリカの経済学の主流です。オックスフォード調査などを重視すれば、現実遊離した演繹(えんえき)理