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ブックマーク / honz.jp (20)

  • 『宗教の起源──私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』 ダンバー数、エンドルフィン、共同体の結束 - HONZ

    ロビン・ダンバーは、彼が提唱した「ダンバー数」とともに、その名が広く知られている研究者である。ダンバー数とは、ヒトが安定的に社会的関係を築ける人数のことであり、具体的には約150と見積もられている。ダンバーは、霊長類各種の脳の大きさ(とくに新皮質の大きさ)と集団サイズの間に相関関係があることを見てとり、ヒトの平均的な集団サイズとしてその数をはじき出したのであった。 さて、そんなダンバーが書で新たな課題として取り組むのが、「宗教の起源」である。人類史において、宗教はどのようにして生まれ、どのように拡大を遂げていったのか。宗教に関する広範な知識に加えて、専門の人類学や心理学の知見も駆使しながら、ダンバーはその大きな謎に迫っていく。 ダンバーも言及しているように、現生人類の歴史のなかで、宗教は個人や社会に対していくつかの利益をもたらしてきたと考えられる。その代表的なものを5つ挙げるとすれば、(

    『宗教の起源──私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』 ダンバー数、エンドルフィン、共同体の結束 - HONZ
  • 友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ

    ヒトの進化において「協力的なコミュニケーション」が大きな鍵を握ったであろうことは、たびたび指摘されるところである。人がひとりでできることは限られている。単独で野生動物を狩ろうとしても、得られるのはせいぜいウサギくらいだろう。しかし、ほかの人と協力すれば、わたしたちはシカだって野牛だって狩ることができる。また、ほかの人と情報交換すれば、わたしたちは新たな技術などについて伝えあうことができる。というように、その進化史において、協力的なコミュニケーションはヒトに多大なメリットをもたらしたと考えられる。 しかしそれならば、次のような問いがさらに生じても不思議ではないだろう。ヒトはどうやって協力的なコミュニケーションを行うことができるようになったのか。 書は、その問いに対してひとつの回答を与えようとするものである。そして、書が導き出す回答は、原書のタイトル(Survival of the Fri

    友好的なのが何より大事 『ヒトは〈家畜化〉して進化した──私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』 - HONZ
  • 『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』世界はくだらない仕事にあふれてる - HONZ

    待ちに待った邦訳がようやく出た。 デヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ』である。 「ブルシット・ジョブ」とは、「クソどうでもいい仕事」のことだ。 もう少し丁寧に説明すると、「なんのためにあるのかわからない、なくなっても誰も困らない仕事」のことである。 近年、私たちの身の回りでブルシット・ジョブが増えている。 そして、確実にこの手の仕事は、働く人々の心身を蝕んでいる。 多くの人がこのことにうっすら気づいていたようで、2013年に著者があるウェブマガジンで「ブルシット・ジョブ現象について」という小論を発表したところ、国際的な反響を呼んだ。書はこの小論をベースに、その後の調査や考察を加えて一冊にまとめたものだ。コロナ禍でエッセンシャル・ワーカーに注目が集まる中、時宜にかなった出版といえる。まさにいま読むべき旬の一冊だ。 著者のデヴィッド・グレーバーは、イギリスの名門大学、ロンドンスクー

    『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』世界はくだらない仕事にあふれてる - HONZ
  • 『韓国 内なる分断: 葛藤する政治、疲弊する国民』これを読まずに韓国政治を語ってはいけない - HONZ

    韓国の現代政治史」をコンパクトにまとめただと理解した。立場は中立にして冷静。これを読まずに韓国政治について語ってはいけないと思う。 連続する大統領の悲劇や反日など、このの中では小事に過ぎない。それほど韓国内の政治対立は歴史的にも地域的にも根が深く、制度的にも心理的にも激烈で、とてつもなく複雑かつ深刻なのだ。これほどまでとは思わなかった。 朝鮮戦争は朝鮮半島の内戦に冷戦中の大国が加担したのだが、このままでは将来的に韓国内で内戦が起こるのではないかと思うほどの状態のようにも見える。若者だけが希望かもしれない(いまでは日を含めてどの国もそうだ!) 最初はKindleで読んだのだが、印刷を再度購入した。もう一度、付箋を貼りながら読んでみることにした。揶揄するつもりは毛頭ないのだが、もはや三国志のような壮大な歴史ドラマを読んでいるような気がしてきたのだ。それほどまでに情報量が多い。 タイト

    『韓国 内なる分断: 葛藤する政治、疲弊する国民』これを読まずに韓国政治を語ってはいけない - HONZ
  • 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』無類に面白い!少年の成長物語 - HONZ

    今年もっとも感情を揺さぶられた一冊だ。 なにしろこのを読んでいる間、いい歳して中学生かよ!というくらい落ち着きがなかった。世の中の不条理に憤って汚い言葉を口にしたかと思えば、声をあげてギャハハと笑い、気がつけば目を真っ赤にして洟をかんでいた。 ノンフィクション好きで著者の名前を知らない人はいないだろう。ブレイディみかこさんは地元福岡の進学校を卒業後、音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始し、2017年に『子どもたちの階級闘争−ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞を受賞した。ここ数年、注目を集める書き手である。 書は彼女がこれまで書いたものの中で、もっともプライベートな色合いの濃い一冊といっていいだろう。彼女は英国南部のブライトンという街で、アイルランド出身で大型ダンプの運転手をしている配偶

    『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』無類に面白い!少年の成長物語 - HONZ
  • 『団地と移民』団地をみればこの国の未来がわかる - HONZ

    戦後日における画期的な発明といえば? 人によって答えはさまざまだろうが、個人的には「51C」を挙げたい。 「51C」とは、1951年度に計画された公営住宅標準設計C型の通称である。焼け野原からの復興の過程で、不足していた住宅供給をどうするかが国の喫緊の課題だった。そんな中、35平米というコンパクトな空間で、べる場所と寝る場所を分ける「寝分離」を実現させた「51C」の理念は、その後設立された日住宅公団にも引き継がれ、公共住宅の原型となっていく。間取りを考える際に私たちが当たり前のように思い浮かべる「nLDK」は、ここから発展したものだ。「51C」は、現代日人の住まい方のルーツでもある。 かつては狭い部屋で家族全員が寝をともにするのが普通だったから、「51C」の理念に基づいて設計された公共住宅は、当時の人々には輝いて見えたに違いない。事実、1960年には完成してまもないひばりヶ丘団

    『団地と移民』団地をみればこの国の未来がわかる - HONZ
  • 『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』高邁な理想主義がなぜ失敗するのか? - HONZ

    書は、今でもなお残されている、古き良き「アメリカの良心」を代弁する、社会変革のための提言書である。 なぜ5億ドルもの資産を持つ大富豪である書の著者が、上位1%の超富裕層への課税強化を提唱するのか。書の後書きに出てくる彼の言葉に、その思いが集約されている。 資主義の潮流は否応なしに不平等へと向かうため、市場を富裕層だけでなく万人のために機能させるには、不断の警戒が欠かせない。・・・なぜなら、ほとんどの人が基的に公正な世界を望んでいるからであり、また近年のペースで富の集中が続けば資主義の崩壊を招きかねないからでもある。・・・もしも僕らの息子が、ほかの人や周りの世界に対して自分が負っている責任を理解せずに育てば、僕は親として失格ということになる。 アメリカの中流家庭に育った著者は、努力型の秀才で、名門私立高校フィリップス・アカデミーから奨学金つきでハーバード大学に進学した。そして、た

    『1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』高邁な理想主義がなぜ失敗するのか? - HONZ
  • 『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』AI・ビッグデータの暴走を止めよ! - HONZ

    『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』AI・ビッグデータの暴走を止めよ!編集部解説 ある日、ドアを開けると・・・ ある日、玄関の呼び鈴が鳴り、ドアを開けると警官が立っている。 「警察はあなたを監視しているので、気をつけるように」 そう告げられるが、これまで犯罪をおかしたことなどない。だが、ビッグデータを活用した「犯罪予測システム」によって、要注意人物として指定されたという。ソーシャルネットワーク解析によって、知り合いに犯罪者のいたことが、その理由の一端らしい。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 求職中のあなたは、就職したい企業に応募するが、どこからも断られてしまう。学業は優秀だし、採用されるとばかり思っていたので、たいへんなショックだ。原因はどうやら「適性検査」プログラムで、メンタル面に問題ありと診断されたことらしい。普及している電子審査のため、どこを受けても同

    『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』AI・ビッグデータの暴走を止めよ! - HONZ
  • 『移民の政治経済学』 移民にまつわる不都合な真実 - HONZ

    国境のない世界を想像してごらん。 ジョン・レノンはこう問いかけることで、多くの人々の気持ちを動かした。ジョンはそのように想像することは難しくないと言ったけれど、生まれたときから当たり前にある国境が無くなってしまった世界を、具体的に思い描くことは容易ではない。その世界では、人々は当に自由に世界中を行き来するのだろうか、企業はより安い労働力を求めて移転するのだろうか、いがみ合っていた国と国と争いが瞬時に消えてなくなるのだろうか、オリンピックはこれほど盛り上がるだろうか。 経済学者はこの問いかけに、先ずは貿易を制限する障壁がなくなった世界をシミュレートすることで応えようとしてきた。そして、自由貿易は各国を豊かにすると同時に世界の格差を減少すると信じられてきた。ところが、この数十年の間に貿易の自由化は大きな前進を見せたにも関わらず、経済学者が予期していたような賃金の増大・平準化は実現されていない

    『移民の政治経済学』 移民にまつわる不都合な真実 - HONZ
  • 社会分断による英国の『チャヴ 弱者を敵視する社会』は日本の近未来かもしれない - HONZ

    『チャヴ』、聞き慣れない言葉である。もとはロマ族の「子供」を指す言葉「チャヴィ」から来た、英国において用いられる「粗野な下流階級」を指す蔑称である。いくつかの英語辞典を調べてみると、「生意気で粗野な態度によって類型化される若年下流階級(オクスフォード英語辞典)」、「教養の欠如や下流階級であることを、その衣服や話し方、行動があらわすような人を示す蔑称。通常は若者を指す。(ケンブリッジ英語辞典)」、「たとえ高価であっても、その趣味が低俗であるとされる若い労働者階級(コービルド英語辞典)」などとある。 さんざんな物言いである。しかし、これらの定義を全部あわせても、チャヴという言葉を正しく理解するには足りないようだ。そこには「公営住宅に住んで暴力的」、「中流階級の謙虚さや上品さがなく、悪趣味で品のないことにばかり金を使う浪費家」、さらには、「暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存」とい

    社会分断による英国の『チャヴ 弱者を敵視する社会』は日本の近未来かもしれない - HONZ
  • 『大不平等』 グローバリゼーションは格差をもたらしたのか? - HONZ

    グローバリゼーションにブレーキがかかり始めた。欧州での右派政党台頭、トランプの保護主義的政策だけでなく、これまで移民を優遇してきたシンガポールやオーストラリアなどでも就労ビザの厳格化が進み、国境を隔てる壁は日々高くなっている。世界は、グローバリゼーションの何を恐れているのか。絶望的なほどの格差を生み出した真犯人は、グローバリゼーションなのか。グローバリゼーションの流れをとめることで、誰が幸せになり、誰が不幸になるのか。 意外に思われるかもしれないが、1988年から2008年におけるグローバリゼーション最大の「勝ち組」は中間層だった。ここでいう中間層とは文字通り、世界の所得分布で50パーセンタイルに位置する人々のことを指す。20年で実質所得を大きく伸ばしたこの中間層の多くは中国、インドやタイなどに暮らすアジアの新興経済圏の人たちであり、日のような先進国に暮らす人のほとんどは当てはまらない。

    『大不平等』 グローバリゼーションは格差をもたらしたのか? - HONZ
  • 人間らしさあふれる伝記 『ムハンマド─世界を変えた預言者の生涯』 - HONZ

    ムハンマド、あまりに人間らしさにあふれているではないか。といえば、不謹慎になるのだろうか。抜群に面白い伝記であった。イスラームの開祖、より正しくは、アラブにおける唯一神アッラーの言葉をつたえた預言者ムハンマドの伝記である。その啓示は、クルアーン(コーラン)としてムハンマドの死後20年たって公式に編纂され、聖典となった。いかにたくさんの人が、クルアーンの朗読に圧倒されてイスラームに改宗していったかに驚かされる。 クルアーンの内容の一部が紹介されているが、どこがそんなにすばらしいのかがわからない。当時のアラビア半島における社会状況もあるのだろうが、どうやら、それ以上にクルアーンの美しい響きが重要らしい。だから、クルアーンはアラビア語でないとダメなのだ。YouTubeで聞いてみると、意味がわからなくとも心地よい。砂漠のような環境で、美しい調べにのって語られる、住みよい社会を目指す教えというのは、

    人間らしさあふれる伝記 『ムハンマド─世界を変えた預言者の生涯』 - HONZ
  • 『「全世界史」講義 教養に効く! 人類5000年史』 学びを超えた知的エンターテインメント - HONZ

    のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでなく、生き様や人間関係、組織経営に至るまで、読んでいて気付かされることが多いのに驚くばかりだ。 しかし、書は時代をつくるという崇高な目的のためだけのものではないように思われるのだ。いやそれ以上に、純粋に読む愉悦に浸ることができるだと断言できる。これからの時代を考えることはひとまず脇に置いて、早く次のページを開きたいと思わせる書は高度に知的なエンターテインメントでもあるのだ。 書を読むときのイメージは「人類5000年史」という名

    『「全世界史」講義 教養に効く! 人類5000年史』 学びを超えた知的エンターテインメント - HONZ
  • 『ネアンデルタール人は私たちと交配した』鏡に映ったもう一つの私たち - HONZ

    「青木薫のサイエンス通信」久々の番外編です。今回取り上げたのは、人類のルーツの謎を古代ゲノム解読で突き止めた『ネアンデルタール人は私たちと交配した』。この偉業のインパクトは、「何がわれわれを、われわれにしているのか」という問いに答える、大きな可能性が切り開かれたことにあるのだという。尚、著者のスヴァンテ・ペーボ博士は、7月5日(日)NHKスペシャル「生命大躍進」にも登場。併せてお楽しみください。(HONZ編集部) 少し前のことになるが、『ニューヨーカー』誌のスタッフライターであるエリザベス・コルバートさんが、スヴァンテ・ペーボという科学者の仕事を紹介する記事を書いていた。タイトルは SLEEPING WITH THE ENEMY –what happened between the Neandelthals and us? (敵と寝る--ネアンデルタール人とわれわれのあいだに何があったのか

    『ネアンデルタール人は私たちと交配した』鏡に映ったもう一つの私たち - HONZ
  • 『暴力の人類史』 人類史上もっとも平和な時代 - HONZ

    テロ、紛争、無差別殺人。世界は悲劇的なニュースで溢れている。人類は自らの手でその未来を閉ざしてしまうのではないか、と不安になる。ところが、著者スティーブン・ピンカーは大胆にもこう主張する。 長い歳月のあいだに人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が地上に出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれない にわかに信じがたいこの説を検証し、読者に確信させるためにピンカーは、人類の暴力の歴史を大量の統計データとともに振り返る。書が上下で1,300ページ超という並外れたボリュームで膨大な文献を引用しているのは、並外れた説の主張にはそれに見合った証拠を提出する必要があるからだ。しかし、ピンカーが「統計のない物語が盲目であるとするならば、物語のない統計は空疎である」と語るように、書はデータばかりが延々と続く退屈なものではない。持続的な暴力減少を示す圧倒的な事実の積み重ねとそのメカニズムに対す

    『暴力の人類史』 人類史上もっとも平和な時代 - HONZ
  • サイコパスと診断された科学者が語る『サイコパス・インサイド』 - HONZ

    サイコパスの研究者が、サイコパスであったーーこの衝撃の事実を皮切りに物語は始まる。科学者視点による所見と自分自身のこれまでの体験、二つの視点が交錯する中で際立っていたのは、両者の間に大きな乖離が存在するということであった。 サイコパスの定義とは今日の科学の進展をもってしても、未だ不確かなものである。一般的に「精神病質」と表されるサイコパスの特徴は「平板な感情の動き」に代表される対人関係における共感性の欠如である。映画『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に登場するレクター教授のような、古典的なサイコパス像を思い出される方も多いだろう。 だが決して凶悪な殺人犯だけを指すわけではなく、人を思い通りに操縦しようとしたり、嘘に長け、口がうまく、愛嬌たっぷりで、人の気持ちを引きつけたりといった特徴も含むものとされる。むろん著者は人殺しや危険な犯罪を犯したことなどなかったし、それどころか科学者として成功し、幸

    サイコパスと診断された科学者が語る『サイコパス・インサイド』 - HONZ
  • 無能な研究者のずさんな仕事……なのか?  除草剤アトラジン問題のゆくえ - HONZ

    除草剤アトラジンをめぐる長年の論争がひとつの山場を迎えているようで、『ニューヨーカー』の2月10日号にホットなレポートが載っていました。アトラジンは日でも使われている除草剤でもあり、今後の成り行きが注目されます。 が、今回の記事はアトラジンの性質というよりもむしろ、医薬品や農薬などの安全性を調べている科学者が、その製品を製造販売している企業にとって好ましくないデータを出してしまったらどうなるのか--しかもそこに巨額の金が絡んでいるときには--という、われわれとして知っておくべき残念な事実に関するものでした。 除草剤アトラジンの問題は、両生類(とくにカエル)の内分泌学を専門とする、タイロン・ヘイズという研究者を抜きにしては語れないようで、『ニューヨーカー』の記事もヘイズを軸として展開されていました。 ヘイズは、サウスカロライナ州出身のアフリカアメリカ人で、彼が生まれ育った地域では、人口の

    無能な研究者のずさんな仕事……なのか?  除草剤アトラジン問題のゆくえ - HONZ
  • 『サイコパス 秘められた能力』ジーンプールに漂うサイコパス - HONZ

    サイコパスと呼ばれる特異な人格を形成した人々が存在する。これらの特異な人格を持つ人々が、いつ私たち人類のジーン・プールに紛れ込んだのかはよくわからない。しかし、その存在は古くから知られていた。たとえば、北欧の歴史や神話に登場するベルセルクたち。彼らは軍神オーディーンの神通力で恐怖を克服し、猛り狂いながら敵を殺す。彼らを擁する共同体にとって、それは守護天使であり、敵にとっては死神の化身だ。だが、現実は違う。ベルセルク達は時に自らの共同体の人間にも牙をむける。良心の呵責を感じず、他者に対する冷酷な性格は、ベルセルクと共に生きる人々にとっては両刃の剣だ。王たちは、どんなに彼らが勇敢で武技に長けていても護衛兵にすることは決してなかったという。彼らは狂戦士という名のプレデターなのだ。 捕者としての彼らの能力には驚くべきものがある。ファブリッツォ・ロッシという悪名高い連続殺人犯がインタビューで、いい

    『サイコパス 秘められた能力』ジーンプールに漂うサイコパス - HONZ
  • 『実録 ドイツで決闘した日本人』 - 高貴なる野蛮 - HONZ

    驚くべきことに、ドイツでは今日もなお、刃渡り約90センチの切れ味鋭い真剣を用いた「決闘」が一部の学生の間でごく普通に行われている。 そんな書き出しで書は始まるのだが、驚くのはこちらの方だ。隣のページに目を移すと、いきなり著者が身長2メートル近いドイツ人の大男と決闘しているシーンの記述に出くわす。それも著者が留学していた当時の話だから、わずか30年くらい前の出来事なのだ。 ドイツ語で「メンズーア」と呼ばれるこの「決闘」は、刃渡り88センチ、柄の部分が15センチもある鋭利な真剣を用いて、顔と顔を正面から斬りつけるものである。決闘する両者の間には剣の長さの分、つまり約1メートルほどの距離しかなく、直立して向かい合わなければならない。しかも敵の攻撃をかわすために、上体と頭を前後左右に動かしたりすることすら許されていないのだ。 後ずざりしたり、顔をのけぞらしたり動かしたりした者は、「臆病で卑怯な態

    『実録 ドイツで決闘した日本人』 - 高貴なる野蛮 - HONZ
  • もう、辞めたい・・・。心優しき『戦国の貧乏天皇』 - HONZ

    なかなか刺激的なタイトルだ。 わずか7文字の中に、知的好奇心を刺激してやまない「違和感」が内包されている。 まず「戦国」と「天皇」がうまく結びつかない。日史で習った天皇を思いつくままに挙げてみても、古代であれば神武、推古、聖武、桓武といった有名ドコロがすぐに浮かぶし、中世になると、後に院政を敷いたことで知られる白河、鳥羽といったあたりが思い出される。しかし、その後となると、多くの人にとって耳馴染みがあるのは後醍醐天皇くらいで、建武の新政が崩壊して室町時代に入ってくると、その頃の天皇の名前はほとんど知らないのではないだろうか。 そして「貧乏」と「天皇」も、同じように結びつかない。鎌倉幕府の誕生以降、武家統治の時代が長かったのは事実としても、やはり天皇は一貫して日史の中心にいたはずだ。武家の時代にあっても、たとえば征夷大将軍の任命権限を持っていたのは天皇だ。要するに、武家にとっても天皇の権

    もう、辞めたい・・・。心優しき『戦国の貧乏天皇』 - HONZ
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