ピエール・エルメが創り出す作品に出会う度、私は言葉を失う。彼の作品は究極の芸術作品だと思う。感動する味にであうと人間は「おいしい」という言葉以外何もみつからないのかもしれない。私は彼の作品を口にすると、至福の中でそう感じずにはおれない。 彼の作品を構成する素材はいたってシンプル。シンプルで上質だからこそ、それを芸術の域まで達するには神のような感性と才能が要求される。彼の作品は緻密に計算され、また大胆な発想と繊細な作業によって最終的に全てが完璧に組み立てられている。彼のその成熟した力強い感性の片隅には、天使のように純粋で天真爛漫な子どもの心も内在している。そこが彼の魅力である。 自然の恵みを感謝していただくこと、最上級のおいしさとは自然そのものをいただくことだと彼のケーキを食べる度に私はそう思う。彼のケーキは生きている。とびきり新鮮で上質な素材は生命にあふれている。素材の命が食べる者の身体中