1 関東大震災時における「朝鮮人虐殺に関する知識人の反応」のなかで、編者の琴秉洞氏が、もしかするとただ一人、まるで、「問題のある発言をしているけれど、こういう型の人間では、対等に取り扱って叱ってみても仕方がない」とでもいうかのように、さしたる批判もなく通過している(ように見える)人物があった。それが小説家の「葛西善藏」なのだが、琴秉洞氏はあるいは、震災に関する廣津和郎の文章を読み、そこに描かれている葛西善藏の姿を見てそのような判断をされたのかも知れない。 震災に関する廣津和郎の文章は、「年月のあしおと」(講談社、1963年刊)から一部を抜いたということだが、これは「葛西善藏の「蠢く者」」という小見出しが付いた文章の一部分であり、琴秉洞氏は、 「鎌倉に住んでいた広津は、「町役場からだと云って、自転車に乗った男が」朝鮮人襲来を触れまわっているのを聞いて、「そんな莫迦な話があるものか」と言下に否