玉水物語 2巻 | 京都大学貴重資料デジタルアーカイブ ※この記事では、京都大学貴重資料デジタルアーカイブの画像を、適宜改変して使用しています。 【原文】 御所へぞ帰りける。 既《すで》に霜月に成りぬれば、御内参りの御儀式、目も驚く斗《ばか》り也。 女房達、童《ワらハ》、三十人、中にも此の玉水をバ中将《ちゅうじょう》の君に為《な》し給へて、一の女房に定めらる。 されども、是を勇ましくも覚へず、常ハ打ち萎《しほ》れたるを、 「如何に?」と怪しミ給へバ、 「何となく風の心地」など云ひ紛らハし、 「如何様《いかやう》にも物 思《おぼ》すらん。 斯許《かバか》り隔て無く思ふを、などか心に込めて言ひ出で給ハざるらん。 語りても慰み給へかし」 との給[宣]へば、打ち泣きて、 「終《つゐ》にハ知ろし召さるべき事なれども、今ハ語り奉らじ。 亡からん跡にも哀れとは覚し召し出させよ」 など申せバ、心苦しう思す