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ブックマーク / s-scrap.com (27)

  • 第1回 2月13日/2月23日

    作家・柴崎友香による日誌。「なにかとしんどいここしばらくの中で、「きっちりできへんかったから自分はだめ」みたいな気持ちをなるべく減らしたい、というか、そんなんいらんようになったらええな」という考えのもとにつづられる日々のこと。「てきとうに、暮らしたい」、その格闘の記録。 「地震があった」 地震があった。 夜、一度ヨギボー(ビーズクッションのソファ)で寝てしまう癖があって、それでちょうど目が覚めかけたときなのか、揺れで目が覚めたのか判然としないけれど、ずずん、と地面の深いところで振動するような感覚があり、地震かな、と思ったら、あちこちがかたかた鳴り始め、揺れ始めた。最近の地震になかった感じ、と思ったのはその通りで、だんだんと揺れが大きくなり、なにが当たっている音なのかわからないがかちゃかちゃこんこんとあちこちで音がする。 ああ、これはよくない、とわたしはとりあえず玄関ドアを開けて廊下に出た。

    第1回 2月13日/2月23日
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    nstrkd 2021/04/09
  • 第6回 最後に知る秘密

    誰でも「できる」ことと「できない」ことがある。「できる/できない」の間で迷ったり、不安を感じたり、無力感を持ったりしながら生きている。レビー小体病という「誤作動する脳」を抱え、できなくなったことと工夫によってできるようになったことを自己観察してきた著者が、「できる/できない」の間を自在に旅するエッセイ。 今年の初め、浴室から出るときに初めて転んだ。なぜか足拭きマットがなかったが、気にせず足を踏み出すと、ツルツルの氷の上を踏んだかのように鮮やかに滑り、全身が宙に浮かんだ。 生命の危機を感じたとき、時間は、映画「マトリックス」の世界のように超スローに切り替わる。(昔、車で軽い事故を起こしたときにも体験した。) このまま倒れたら、この硬い角に後頭部を強打して死ぬかもしれない。 助かっても脳へのダメージは深刻だ。出かけている夫が帰宅して、とんでもない格好で死んでいる私を見つける。警察が呼ばれ、何人

    第6回 最後に知る秘密
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    nstrkd 2020/12/18
  • 第2回 会いたい。会いたい。会いたい。

    誰でも「できる」ことと「できない」ことがある。「できる/できない」の間で迷ったり、不安を感じたり、無力感を持ったりしながら生きている。レビー小体病という「誤作動する脳」を抱え、できなくなったことと工夫によってできるようになったことを自己観察してきた著者が、「できる/できない」の間を自在に旅するエッセイ。 コロナ時間(自粛要請期間)の真っただ中にやって来たのは、身内が緊急入院したという知らせだった。 「今、検査中。手術をすることになるだろう。最悪の場合は……」 文字になった医師の説明は、表情や声のニュアンスがない分、より冷酷に見え、全身がすーっと冷えていくのを感じた。 今すぐ新幹線に飛び乗って行きたい。即座にそう思ったが、それはコロナ時間が許さない。自粛ルールを破って行ったところで、面会も全面的に禁止になっているという。 最悪の場合……? そのときには、お葬式にすら出られないのかと思ったら胃

    第2回 会いたい。会いたい。会いたい。
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    nstrkd 2020/08/12
  • 第1回 できる人には、できない人が、なぜできないのかわからない

    誰でも「できる」ことと「できない」ことがある。「できる/できない」の間で迷ったり、不安を感じたり、無力感を持ったりしながら生きている。レビー小体病という「誤作動する脳」を抱え、できなくなったことと工夫によってできるようになったことを自己観察してきた著者が、「できる/できない」の間を自在に旅するエッセイ。 「コロナ時間」が明けるとニュースが伝えている。5月25日に扉を開くので、家から出てもいいという。突然「いい」と言われても、どのくらい安全なのか、危険なのかも見えない私は、扉の前に立って、きょとんとしていた。 私にとっては、ずるずると這うような、それでいて、何をしたのかもわからないうちに1日が終わっていった「コロナ時間」。長かったのか短かったのかもよくわからない。 集中治療室にいる人々にも、その家族にも、命をかけて働いていた人々にも、仕事も住む場所も奪われ屋外で眠るしかなくなった人々にも、学

    第1回 できる人には、できない人が、なぜできないのかわからない
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    nstrkd 2020/07/16
  • 第1回 Future Values

    全感覚祭――GEZANのレーベル十三月が主催するものの価値を再考する野外フェス。GEZAN マヒトゥ・ザ・ピーポーによるオルタナティブな価値の見つけ方。 目を離すとたまるラインの通知。桁がえらい事になる。 「フードフリー」 俺は何を言ってしまったのだろう。そのことの重量感と格的に向き合うのはそのステイトメントを出した後になる。第六回目になる全感覚祭、フードフリーのコンセプトは前々から十三月のクルーの面々には話してはいたが、またいつもの思いつきでその夢物語を嘘ぶいているだけだろうというのがその時の印象だったようで、発せられ拡散されていくツイートに皆、心臓を縮こませて震え上がっていた。 仮に東京大阪を合わせた来場者数が小さく見積もって4000人だとしても、長丁場のイベントの場合、二、三杯はご飯をべることも想像すると必要な最低量は一万を超える。触ったことも見たこともない山の前にわたしたちは

    第1回 Future Values
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    nstrkd 2019/10/12
  • 第6回 「私」ではなく「問題」が問題なのだーー多量服薬の当事者研究

    うつ病、自殺未遂、貧困生活保護、周囲からの偏見のまなざし……。幾重にも重なる絶望的な状況を生き延びた体験をまとめた『この地獄を生きるのだ』で注目される小林エリコさん。彼女のサバイバルの過程を支えたものはなんだったのか? 命綱となった言葉、ひととの出会い、日々の気づきやまなびを振り返る体験的エッセイ。精神を病んだのは、貧困生活になったのは、みんなわたしの責任なの?──おなじ困難にいま直面している無数のひとたちに送りたい、「あなたはなにも悪くない」「自分で自分を責めないで」というメッセージ。 精神病院を退院してから、東京のアパートを引き払い、茨城の実家に戻った。身辺整理が落ち着いてから、私は棚からあるを取り出した。「べてるの家の」という自費出版で出されただ。このは私が短大生の時に、教授からもらったものだ。「私よりも、あなたが持っていた方がいいから」そう言って教授は一冊しか手元にない

    第6回 「私」ではなく「問題」が問題なのだーー多量服薬の当事者研究
  • 第10回 ブレグジットは撤回できるのか──ゾンビ政権と国家のクライシス

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載、その第10回。メイ政権がジリ貧になり、ブレクジット撤回の動きも活発化してきている英国。はたしてEUとの離脱交渉の行方は? 民意で決めたことは、民意でしか変えることはできない。「国民投票」も現実味を帯びてきている日に向けた、貴重なレポート。 いよいよジリ貧のメイ政権 不用意なことは口にしないエレガントな穏健派だったはずの英国のハモンド財務相が

    第10回 ブレグジットは撤回できるのか──ゾンビ政権と国家のクライシス
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    nstrkd 2017/11/27
  • 第4回 海外パック旅行で見えてくるもの 前編

    定年になったら二人でいろんな海外を廻りたい。 50才を過ぎた夫婦の多くが考える第二の人生の楽しみのひとつです。いまある海外パック旅行は個人で旅をするよりも相当の割安で、熟練の添乗員がついている。適度なフリータイムが組み込まれているものもありよく考えられています。通常の時期であれば、だいたい1ヶ月くらい前までは何の違約金も支払わずにキャンセルもできるのも嬉しいところ。二人でスーツケースを抱え、ガイドブックを片手に慣れない海外で迷いながら個人で旅をするよりも、面倒なことはすべてプロに任せ、憧れの海外の名所で二人笑顔で記念写真に入るのはいい思い出になるものです。 特におすすめしたいのは、多少の自由時間などがあったとしても、大部分の行程がツアーで決められているお任せ系のパック旅行です。 そして、可能であれば定年を待ってなどと言わずに、会社に頼んで休みをもらい今直ぐにでも出かけることをおすすめしたい

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    nstrkd 2017/11/16
  • 第11回 「匿名の思想」から考える

    海外でテロリストの人質になるとさかんに「自己責任」論が叫ばれる。他方、甲子園児の不祥事が発覚するとそのチームが不出場となる「連帯責任」も強い。「自己責任」と「連帯責任」、どちらが日的責任のかたちなのか? 丸山眞男「無責任の体系」から出発し、数々の名著を読み解きつつ展開する、「在野研究者」による匿名性と責任をめぐる考察。その第11回は、清水幾太郎の唱える「匿名の思想」、さらにはその担い手である「庶民」の概念について考える。 ここまで、「誰でもない」をめぐる想像力の諸相を遊覧してきた。けれども、いま少しばかり反省してみれば、その道のりはいささか依然として「誰」に執着しすぎたきらいがあったかもしれない。「誰でもない」を、単なる「誰」の否定態としてだけ素描することで満足していいのか。それによって、可能なる無責任を発見するという当初の目論見は達成されるのだろうか。 寧ろ、私たちは一度として具体的な

    第11回 「匿名の思想」から考える
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    nstrkd 2017/09/30
  • 第8回 ポストEU離脱騒動の英国は、ストの時代 -Workers FROM all lands, unite!―

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載、その第8回。マクドナルドでストが打たれるなど、英国の労働者たちが闘いはじめた。この闘う労働者たちが、メディアで語られるステロタイプな労働者階級像を打ち破り、真に団結するための条件とは? 英国でマクドナルドの従業員たちがストライキを行ったことが世界中で報道された。英国でマクドナルドが開店して初めてのストであり、従業員たちは労働環境の改善や賃金の

    第8回 ポストEU離脱騒動の英国は、ストの時代 -Workers FROM all lands, unite!―
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    nstrkd 2017/09/17
  • 晶文社スクラップブック

    膝の皿を金継ぎ第5回 サバイバル煮物 2023-12-28第4回 ところでペットって飼ってます? 2023-11-30第3回 喋るはいなくても 2023-10-31第2回 夢のPDCA 2023-09-29第1回 ここではない、青い丸 2023-08-31

    晶文社スクラップブック
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    nstrkd 2017/08/06
  • UK地べた外電 – 晶文社スクラップブック

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載、その第12回。3月14日に76歳で亡くなった天才宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング博士。宇宙の真理を探究し続ける一方で、政治・経済の問題にも積極的にコミットする闘士だったことは、日ではあまり知られていない。緊縮財政からNHS(無料国家医療制度)を守るために闘った最後の姿を伝える貴重なレポート。 「車いすの天才物理学者」スティーヴン・ホーキ

    UK地べた外電 – 晶文社スクラップブック
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    nstrkd 2017/08/06
  • 第5回 若者たちはなぜコービンを選んだのか:英総選挙と借金問題

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載、その第5回。英国総選挙において、奇跡の猛追で保守党の過半数確保を阻止したコービン率いる労働党。その原動力となった若者たちは、なにを重視してコービンを選んだのか。「ノー・フューチャーな世代」のハートに火をつけたものとは? 若者たちはコービンを選んだ 6月8日に行われた英総選挙で、ほんの4週間前まで、与党保守党との支持率の差が20%も開き、ひょっ

    第5回 若者たちはなぜコービンを選んだのか:英総選挙と借金問題
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    nstrkd 2017/06/16
  • 第7回 「われわれ」とは誰なのですか – 晶文社スクラップブック

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    nstrkd 2017/06/01
  • 第7回 公人よ、あなたは「誰」?

    海外でテロリストの人質になるとさかんに「自己責任」論が叫ばれる。他方、甲子園児の不祥事が発覚するとそのチームが不出場となる「連帯責任」も強い。「自己責任」と「連帯責任」、どちらが日的責任のかたちなのか? 丸山眞男「無責任の体系」から出発し、数々の名著を読み解きつつ展開する、「在野研究者」による匿名性と責任をめぐる考察。第7回は、ハンナ・アレントのペルソナについての問題提起から。 政治哲学者、ハンナ・アレントは、ペルソナを公私の区別として問題提起した。 『革命について』のなかで、アレントもまた、語源的釈義を用いて人格の仮面性を読み込む。とりわけ、その仮面によって獲得されるのは、私人とは区別された公共的な「法的人格」であり、ここにおいてヒトは権利や義務など法のなかで取り扱われる政治的存在として見出される。逆にいえば、この仮面をもたない私人は「自然人」に等しく、これは人「間」存在とはいえない単

    第7回 公人よ、あなたは「誰」?
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    nstrkd 2017/06/01
  • 第3回  ブレグジットの前に進め:コービン進退問題とヴァルファキス人気

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載。第3回は、ブレグジット以降、ただただひたすら「後ろへ」つきすすんでいるかに見えるUK左派リベラルの混迷と、それとリンクした野党の凋落ぶりについてのレポート。 なぜか左派こそノスタルジック 「上でも下でもなく、右でも左でもなく、ただただひたすら前へつきすすめ」という文章を栗原康さんが『死してなお踊れ 一遍上人伝』(河出書房)で書いておられ、ふっ

    第3回  ブレグジットの前に進め:コービン進退問題とヴァルファキス人気
  • 第8回 「ありがとうございました」と言ってくれるかもしれない – 晶文社スクラップブック

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    nstrkd 2017/03/07
  • 第2回 「連帯せよ、謙虚に」: スペインのポデモスはいま

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載。第2回は、スペインの急進左派「ポデモス」のドキュメンタリー映画についての話題から、分裂を繰り返しがちな左派が学ぶべき教訓について。 『政治のトリセツ』 ベルリン国際映画祭で、2014年に結党されたスペインのポデモスのドキュメンタリー映画が上映された。監督はマドリッド生まれのフェルナンド・レオン・デ・アラノア。音楽は『バードマン あるいは(無知

    第2回 「連帯せよ、謙虚に」: スペインのポデモスはいま
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    nstrkd 2017/03/07
  • 第1回 「コービン2.0」は英労働党党首のトランプ化を意味するのか

    イギリスがEU離脱を決め、アメリカではトランプ大統領が誕生。今年、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な選挙が行われる欧州では、「さらにヤバいことが起きる」との予測がまことしやかに囁かれる。はたして分断はより深刻化し、格差はさらに広がるのか? 勢力を拡大する右派に対し「レフト」の再生はあるのか? 在英歴20年、グラスルーツのパンク保育士が、EU離脱のプロセスが進むイギリス国内の状況を中心に、ヨーロッパの政治状況を地べたの視点からレポートする連載。第1回は「労働党党首コービンがトランプ化している?」というトピックから。 労働党党首コービンがヴァージョンアップ? 新年早々、英国メディアに「コービン2.0」という言葉が出現した。コービンの側近が言い出したらしいこの言葉、どうやら「Mrマルキシスト」こと労働党党首ジェレミー・コービンの新春のイメージ・チェンジを意味しているらしい。 英国では1

    第1回 「コービン2.0」は英労働党党首のトランプ化を意味するのか
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    nstrkd 2017/02/08
  • 第1回 胃の粘膜

    精神科医、春日武彦さんによる、きわめて不謹慎な自殺をめぐる論考である。 自殺は私たちに特別な感情をいだかせる。もちろん、近親者が死を選んだならば、「なぜ、止められなかったのか」、深い後悔に苛まれることだろう。でも、どこかで、覗き見的な欲求があることを否定できない。 「自分のことが分からないのと、自殺に至る精神の動きがわからないのとは、ほぼ同じ文脈にある」というように、春日さんの筆は、自殺というものが抱える深い溝へと分け入っていく。自身の患者さんとの体験、さまざまな文学作品などを下敷きに、評論ともエッセイとも小説ともいえない独特の春日ワールドが展開していきます。 自殺に前兆はあるのだろうか。妙にふさぎ込むとか、思い詰めたように部屋を片付けはじめるとか、大切にしていた品物を親しい人たちに突然分け与えたがるとか、いきなり思い出の場所を訪れてみるとか、あとから考えてみれば納得のいくような様子が出現

    第1回 胃の粘膜
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    nstrkd 2016/08/20