ドラえもんの秘密道具の中で、私が一番欲しいものは「どこでもドア」である。翻訳はとにかく締切に追われる商売で、依頼が入ると1日中家にこもりっきりということも珍しくない。そんなとき、これを使って仏映画「モンテーニュ通りのカフェ」に出てきたカフェ・ド・テアトルのような活気と色彩あふれる店に行き、クロワッサンにかぶりついてそのバターの香りとパリパリしっとりした歯ごたえを楽しみたい。お昼のそんなひと時が最上級の幸福となり、訳語の選択にも少なからず好影響を及ぼすであろうから。 逆に、絶対世の中にあって欲しくないのは、「ほんやくコンニャク」である。言うまでもなく、あの板コンニャク状の発明品は、翻訳者および通訳者に対してのリーサルウェポンだ。食べる(または頭に乗せる)だけで、相手の言語を細かなニュアンスも含めて理解することができる。さらには、お味噌味まで用意して、グルメにも対応しているユーザー目線が憎らし