二人の「契約」は、実際には、男の統合失調症の病歴という、重大な事柄をかくすことで、成り立っていなかった。 「『今、ここ』を四十年間脇目もふらず生きてきて、初めて『今』より『先』を見てしまった結果である。親にも相談せず自分の意思だけで決定したことだけに衝撃は大きく、自信もなくした。」 実際、男は2か月後くらいから、豹変したのである。 「結婚二ヶ月ぐらいは一見順調に見えたことから、その後の相手の急激な変貌が信じられず、また今までのように、ポストに望みがなく、仮に就職できたとしても好きな研究だけをやっていられるわけでもない苦行を続けていくのかと思うと、気が萎えた。」 これは年譜の中に、もう少し詳しい事実が書いてある。 「新婚旅行から帰って以降、××〔ここは男の実名が入る〕は自分だけの判断で薬を勝手にやめ、被害妄想、幻聴などの症状が頻出、会話も減り、パソコンに依存、この病気の特徴である同居者への執