大竹 剛 日経ビジネス記者 2008年9月から2014年3月までロンドン支局特派員。2014年4月から東京に戻り、流通・サービス業を中心に取材中 この著者の記事を見る
「香港にはなぜ民主主義が存在しないのか。それは、そのために命を落とした人間がまだいないからだ」――。かつて英国領だったこの地に住むある学生は、自由を勝ち取ることには人々が血を流すだけの値打ちがあると考えている。例えば、中国からの独立を求め、市街地で急進派が暴れ回る。英国領事館の前で1人の市民が抗議して命を絶つ。そうした抵抗を鎮圧すべく北京政府が戦車を送り込む…。 こんな悲惨な出来事がこの2016年に起こるとは思えない。だが今後10年の間ならどうだろう。こうした事態が香港で起こる可能性はあるのか。香港映画『十年』は、こんな疑問を投げかけている。地元で大ヒットし、中国当局を激怒させている作品だ。 1997年に香港が英国から返還されたとき、中国は、香港に「高度な自治権」を向こう50年間にわたって与えることに同意した。『十年』は5つの短編で構成されている。どのストーリーも50年を待たずして中国が香
パリで起こった同時多発テロ事件の衝撃は一瞬のうちの世界中を駆け巡った、というこの書き出しの一行の文体は、なんだか、夕方の民放の情報番組がBGM付きで配信している扇情的なニュース原稿のコピペみたいだ。 実際に、あの事件以来、国際社会の空気は切羽詰まった調子のものに変貌している。 私は、911のテロ事件を受けた半月ほどの間に、アメリカ発のニュース映像の基調がいきなりハリウッドっぽくなったことを思い出している。 ついでにと言っては何だが、東日本大震災が起こった後に、私たちの国のメディア状況や世論のあり方が、なにからなにまですっかり変貌してしまったいきさつにも思いを馳せざるを得ない。 世界を世界たらしめているのは、平時の人間の日常的な思想だ。 が、歴史を新しい段階に追いやるのは、非日常のアクシデントだ。 天災や、事故や、組織犯罪や、無慈悲なテロや、偶発的な国境紛争や、狂気に駆られた人間が引き起こす
中国経済が深刻な局面に立たされている。世界的株安に結びつくなど中国が及ぼす影響は甚大なだけに、日本にとっても重大な問題だ。だが、そうした国際情勢とは別に、私はこれまで一貫して中国で暮らす人々に的を絞って取材を行ってきた。個人の生き方、生活環境などを見て歩くことで、大きなニュース報道だけではわからない、微妙に変化する中国社会の一端を日本に紹介したいと思ってきたからだ。そうすることで、等身大の中国(人)を身近に感じられ、中国という国をもっと具体的に理解しやすくなると思ってきた。 今回、久しぶりに北京や上海などを訪問したので、その実感を報告したい。 これまで一般的に中国は経済成長し、衣食足りて、人々の生活はよくなったといわれてきた。だが、私は成長が鈍化した今のほうが、「中国はもっとよくなっている」と感じる。これほどまでに深刻な経済悪化が叫ばれているというのに、この筆者は一体何を寝ぼけたことをいっ
世間はお盆を迎え、それぞれが縁のある故人を偲んだが、筆者はゆっくりと任天堂4代目社長の岩田聡さんのことを思い出した。縁があった、と言うのはおこがましいが、2006年秋以降、取材を通じて随分とお世話になっただけに、偲ばずにはいられない。 岩田さんが急逝してからもう1カ月が経つ。週明け、7月13日の午前9時前、任天堂広報から「メールをご確認ください」という電話がかかってきた。慌てて確認すると、信じがたい内容のメールが届いていた。 「当社をご担当頂いている記者の皆様 当社代表取締役社長岩田聡が7月11日土曜日午前4時47分、胆管腫瘍のため京都大学附属病院において永眠いたしました」 直後、脳裏をよぎったのは、今年3月に任天堂の京都本社でお会いした、岩田さんの意気軒昂とした姿だった。 その前日にディー・エヌ・エー(DeNA)との業務・資本提携を東京のホテルで発表した岩田さんは、「してやったり」といっ
毎年、超会議は千葉県にある幕張メッセの1~8ホールを使っている。今年はこれに加えて離れにあたる9~11ホールへと会場を拡大。幕張メッセのすべてを占拠する国内最大級のイベントに、昨年より2万6000人ほど多い15万1115人が集結した。「ニコニコ生放送」を通じた生中継の視聴者数も2日間で延べ794万人以上と、過去最高だった。 例年以上の人気を見せつけた超会議。だが、今年ならではの意義を見いだす、となると難しい。これぞ、という今年の目玉やテーマが見当たらない。 「ニコ動のほぼすべてを地上に再現する」「ネットとリアルの融合」という超会議に流れる通奏低音は変わらないのだから、回を重ねるに連れ、マンネリ化するのは当然と言えば当然。取材成果をどうアウトプットしようか悩んでいたところ、5月末に超会議の統括プロデューサーに会う機会があり、「マンネリを感じた」と率直にぶつけた。 すると、「今年のコンセプトは
2月以降、カンファレンスでラスベガスを2回訪れたが、確かにあちこちのホテルでTOTOの便器を目にした。もちろん、TOTOの便器が人気なのはラスベガスに限った話ではなく、全米の住居や公共施設を中心に採用が広がっている。 それは業績にも顕著に表れている。 4月30日に発表されたTOTOの2014年度決算は消費増税の反動で減収減益だったが、米国を含む米州の売上高は2億5100万ドル(前期比8%増)、営業利益で1350万ドル(同14.4%増)と好調を維持した。米国の便器市場は工業会などの統計がないため正確なシェアは分からないが、同社では中高級品市場でコーラー(Kohler)に次ぐ2位のポジションを確保しているとみる。 TOTOが中国やASEAN(東南アジア諸国連合)で売上高を大きく伸ばしていることは広く知られているが、米国事業も負けず劣らず良好だ。 水道屋の口コミでシェア拡大 それでは、なぜ米国で
マクドナルドの苦戦が続いている。2月下旬の週末、横浜市内にあるマクドナルドの大型店を訪れたところ、昼時にもかかわらず、客はまばらで店員の方が多いほど。週末の郊外型の店舗では、こうした光景が珍しくなくなった。 なぜマクドナルドから、客が離れたのか。大きな影響を与えているのが、言うまでもなく「チキン問題」だ。2014年7月、チキンの加工を委託している中国の工場が、使用期限切れの鶏肉を使用していたことが発覚した。 日本マクドナルドホールディングス(HD)の同月の既存店売上高は、前年同月に比べて17%減少。さらに、今年に入って、日本全国の店舗で、「ビニールの切れ端」などの異物混入が発覚したことが、追い打ちをかけた。同社が発表した今年1月の既存店売上高は39%減と、2001年の上場以来、最大の落ち込みとなり、2月以降も回復の兆しは見えていない。 チキン問題と異物混入が引き金となったのは間違いないが、
書店チェーンのリブロが、西武百貨店池袋本店に構える本店を6月で閉店するのだそうだ(ソースはこちら)。 残念なニュースだ。 しばらく前から撤退の噂が流れていることは知っていた。 私は本気にしていなかった。 リブロの池袋店は、いつ通りかかっても活気のある店舗だったからだ。 もうひとつ、私が閉店の噂を信じなかった理由は、西武百貨店にとって、リブロが、ブランドイメージ(←西武グループが単なる商品を売る企業ではなくて、情報を発信しライフスタイルを提案する文化的な存在であるということ)を維持する上で、不可欠なピースであると考えていたからだ。 フロアマップの中にきちんとした書店を配置していない百貨店(モールでも同じことだが)は、長い目で見て、顧客に尊敬されない。まあ、書店を必要としないタイプの客だけを相手に商売が成り立たないわけでもない。それはそれでやって行けるものなのかもしれない。が、立ち回り先に本屋
相次ぐ「少年事件(この場合の少年とは、「満20歳に満たない者」を意味する)」が注目を集めている。川崎市で中学1年生を殺害した容疑で神奈川県警は先月末、少年3人を逮捕した。今年1月、名古屋市の女性殺害事件で大学生が逮捕され、昨年7月には長崎県佐世保市で高校生が同級生を殺害する事件が起きた。 2014年4月には改正少年法が成立し、少年事件は厳罰化の方向にある。しかし実は、少年による凶悪犯罪の件数は劇的に減っている。 少年事件はなぜ大々的に報じられるのか。加害少年の「心の闇」とは一体何か。 NHK「週刊こどもニュース」の「初代お父さん」を務めたジャーナリスト・池上彰氏と、2004年の佐世保小6同級生殺害事件を描いたノンフィクション『謝るなら、いつでもおいで』(集英社)の著者で毎日新聞記者の川名壮志氏が語り合う。 (対談は2月7日に実施した。構成は外薗 祐理子) 池上彰(いけがみ・あきら)氏 ジャ
蛯谷敏 日経ビジネス記者 日経コミュニケーション編集を経て、2006年から日経ビジネス記者。2012年9月から2014年3月まで日経ビジネスDigital編集長。2014年4月よりロンドン支局長。 この著者の記事を見る
スティーブ・ジョブズの功績ばかりに注目されることが多いが、私が日本語版の序文を記した『ジョナサン・アイブ』でも紹介されているとおり、アップルのデザインチームを率いるジョナサン・アイブの貢献は非常に大きい。今回は、ジョナサン・アイブとスティーブ・ジョブズの二人が、どのようにアップルの企業体質をデザイン主導へと大きく転換したのかを紹介しよう。 デザイン思考の重要性に気づいても、なかなか企業やチームの体制を変えられずにいる人たちのヒントになれば幸いだ。アイブの洗練さを追求するデザインへの姿勢を書いた前回の記事とも少しかぶるが、まずはジョブズとアイブの最初の共同作業、初代iMacの話からだ。 真のデザイン経営ができたスティーブ・ジョブズ 初代iMac発表直後の1998年、私はアップル社内でもっとも厚い秘密のベールに包まれたアップル社工業デザイン部門(IDg)を訪問して、ジョナサン・アイブにインタビ
岩谷ゆかり ジャーナリスト 東京生まれ。ジョージタウン大学外交学部卒業。2006年にウォール・ストリート・ジャーナルへ転職し、東京特派員を経てサンフランシスコでアップル担当として活躍。ジョブズの肝臓移植など数々のスクープで有名。 この著者の記事を見る
4月14日に発売された日経ビジネスの別冊「新しい経済の教科書2014~2015」。5年目になる今年のテーマは「ビジネスと経済学」だ。冒頭に登場するのが、米グーグルの収益源となる広告モデルを設計したハル・ヴァリアン氏と、ミクロ経済学を専門とする若手経済学者、安田洋祐・大阪大学経済学部准教授である。ヴァリアン氏はトップクラスの経済学者として世界的に知られてきたが、今やIT(情報技術)産業の枢要な「頭脳」となった。いま、情報ビジネスと経済学の最前線で何が起きているのか。本稿では、その対談内容の一部を紹介する。(写真:林幸一郎、以下同) 安田:グーグルをはじめとする検索エンジンの収益の大半は、「検索連動型広告」と呼ばれる企業広告の広告料です。よく検索結果ページの上部や脇に表示されているあれですね。ハル・ヴァリアンさんが知見を生かして作り上げた最先端のオークション理論を、グーグルが活用して大きく成長
女子高生の実験論文が海外の化学分野の学術雑誌に掲載されたり、女性科学者が万能細胞作製で注目されたりするなど、近年理系分野での日本人女性の活躍がメディアを賑わしている。 しかしながら、日本では理系分野に進学する女子生徒はいまだ少数派だ。政府は理系に進学する女子高生を増やそうと様々な取り組みをしている。例えば、科学技術振興機構は、女子生徒の理系の専門分野への関心を高めることを目的とした「女子中高校生の理系進路選択支援プログラム」を運営し、大学で女子中高生のためのイベントを開き、ロールモデルとなる女性研究者を紹介している。 理系の分野へ進学するためには数学の学力が必要であるが、経済協力開発機構(OECD)が2012年に日本を含む65カ国で51万人の15歳を対象にした学力診断テストでは、日本の15歳の女子生徒の数学の学力は男子生徒と比べると低いことが明らかになった。 日本の生徒達の数学の平均点数は
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