刑事さん、さようなら 作者: 樋口有介出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2011/02/24メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (9件) を見る タイトルは、「警官にさよならを言う方法はいまだに発見されていない」という名文に、明らかに対応しているだろう。端的な事実として、法治=市民社会の内部にいるかぎり、警官とサヨナラできる方途はない。その警官が不法な行いを犯しているとしても――。誰が、警官に「さようなら」と言えるのか。作者はこれまでにも、ある種の“善意”=イノセントの持つ不気味さを描いてきたが、本作ではそのパーソナリティを、日本社会の周縁に位置づけられた者に交錯させて、法-外な人物像を造出した。「刑事さん、さようなら」とは、公的なるものとの切断の意識が、私的なるものに殉ずることに屈託を覚えない精神に担保されたときに綻んで出る、長いお別れの挨拶であり、この者か