特派員リポート 武石英史郎(イスラマバード支局長) 世界史上、例えばフランスのジャンヌ・ダルクのように、罪を問われて処刑されながら、時代がたって「英雄」として名を残した人物が何人かいる。来年、独立70年を迎えるパキスタンにもそんな人物がいた。英領インド時代の1929年、古都ラホールで、イスラム教の預言者ムハンマドを揶揄(やゆ)した本を出版したヒンドゥー教徒を刺殺し、英植民地当局に殺人罪で処刑された若き家具職人イルムディンだ。 無名の若者の行動は、ヒンドゥー教徒が多数派の英領インドでは少数派として虐げられていると感じていたイスラム住民の琴線に触れた。生前行われた裁判では、後にパキスタンの「建国の父」となるジンナーが弁護に立ち、「建国の詩人」として尊敬を集めるイクバルが葬儀を主宰した。その盛り上がりが、47年にイスラム教徒の国としてパキスタンを分離独立させる遠因の一つになったとの見方がある。