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ブックマーク / book.asahi.com (107)

  • 奴隷制後の世界を生きることとは?  ――『母を失うこと』訳者あとがき 榎本空|じんぶん堂

    記事:晶文社 『母を失うこと 大西洋奴隷航路をたどる旅』(サイディヤ・ハートマン著、榎空訳)。現代ブラック・スタディーズの古典的作品にして、紀行文学の傑作 書籍情報はこちら 世界のあり方が一変してしまう 大西洋なら一度だけ近くで見たことがある。ノースカロライナに住んでいた頃、車を三時間ほど走らせて、サウスカロライナのビーチに家族で行った。次女の一歳の誕生日に合わせたから、二〇二一年の初夏だったと思う。友人家族が出不精なわたしたちを連れ出してくれた。海岸沿いにそびえるリゾートホテルをいくつも通り過ぎれば、大西洋が開けている。砂浜を埋める多様な肌の色をした人々、その隙間に花が咲いたように突っ立ったパラソル、子どもたちの歓声、不意の強風に吹き飛ばされたビーチボール、緑がかった海に波の白、空の青。それはどこからどう眺めてみても観光地の平凡な光景に違いなく、わたしもまた、その中の紛れもないひとり

    奴隷制後の世界を生きることとは?  ――『母を失うこと』訳者あとがき 榎本空|じんぶん堂
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    okbc99 2024/06/17
  • イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの? 早尾貴紀——前編|じんぶん堂

    記事:平凡社 パレスチナ・イスラエル問題に関するオンラインセミナー「パレスチナ連続講座」に登壇する東京経済大学教授の早尾貴紀さん 書籍情報はこちら ヨーロッパ植民地主義を反復するイスラエル イスラエルは1948年の建国の際に、およそ500のパレスチナの村や町を破壊し、住んでいた人々は難民となって周辺の地域に逃れました。とりわけガザ地区は住民の70%以上が難民という状況が生じました。 1967年から軍事占領されたガザ地区では、抵抗運動とそれに対する弾圧、空爆や侵攻も繰り返されてきました。2000年代からは陸海空の封鎖が強化され、ガザ地区は外部との出入りがほぼできない「巨大監獄」のような状態に置かれています。2023年10月7日の武装蜂起は、このような軍事占領に対する最終的な一斉蜂起、最後の抵抗でした。 それを受けてイスラエルは大規模な空爆、侵攻、虐殺を始めました。抵抗運動を組織してきたハマー

    イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの? 早尾貴紀——前編|じんぶん堂
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    okbc99 2024/06/09
  • イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの? 早尾貴紀——後編|じんぶん堂

    記事:平凡社 パレスチナ・イスラエル問題に関するオンラインセミナー「パレスチナ連続講座」に登壇する東京経済大学教授の早尾貴紀さん 書籍情報はこちら 《前編はこちらから》 ホロコーストを経験したユダヤ人とイスラエル 「ホロコーストを経験したユダヤ人が、どうしてジェノサイドをする側になるのか」という質問をよく受けます。そのことについて、2023年に日でも公開された『6月0日 アイヒマンが処刑された日』という映画を例にお話しします。ナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンは1960年に逮捕され、62年にイスラエルで処刑されました。映画ではその死体を焼却する炉を作る過程が描かれます。映画に登場する鉄工所の社長、作業員、臨時に雇われた少年工は、それぞれ、「イスラエル国民」を構成する3階層のユダヤ人グループに属しています。 1つめのグループは、イスラエルの建国運動を中心的に担った人たちです。ヨーロッパ出身で

    イスラエルはどうしてあんなにひどいことができるの? 早尾貴紀——後編|じんぶん堂
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    okbc99 2024/06/09
  • 鴻巣友季子の文学潮流(第14回) 「関心領域」映画・原作が問いかける「悪」との向き合い方|好書好日

    原作はダーク・コメディ風 アカデミー賞国際長編映画賞を受けたジョナサン・グレイザー監督の「関心領域」が一般公開され、話題を呼んでいる。 アウシュヴィッツ強制収容所所長(司令官)ルドルフ・ヘス一家の”平凡な”暮らしを描きだす。壁一枚隔てた隣には、ユダヤ人がガス室で虐殺されてく収容所があり、焼却炉の煙が立ち昇り、悲惨な叫び声が響いてくる。囚人らの発するイディッシュにはあえて日語字幕を付けていないので(*試写時)、この言語を解さない(私も含む)耳には、音が不穏さを醸しながらも意味を持たず通過していくだろうと思った。まさにヘス一家の耳にそうであったように。 ヘス家の邸宅にはが丹精した庭があり、草花が咲き誇り、友人や子どもたちが集まってピクニックをする。隣の収容所で起きることは、まるで彼らのzone of interest(関心や利害の範囲)にない。 子どもたちと川で泳いでいたヘスが狂ったように

    鴻巣友季子の文学潮流(第14回) 「関心領域」映画・原作が問いかける「悪」との向き合い方|好書好日
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    okbc99 2024/05/30
  • スティーヴン・キング、デビュー50周年 「書くこと」の多面性を描く 阿津川辰海|好書好日

    Stephen King 47年生まれ。74年、「キャリー」で作家デビュー。エドガー賞など多くの文学賞を受賞。「ショーシャンクの空に」(原作は中編「刑務所のリタ・ヘイワース」)など映像化作品も多い=Shane Leonard氏撮影 二〇二四年はスティーヴン・キングのデビュー五十周年にあたる。ホラーのみならず「エンタメの帝王」ともいうべき存在だ。キング作品を貫く一つのキーワードとして、「書くこと」の多面性を描き続けていることを挙げたい。 傷痕から紡ぐ 「書くこと」とは、自らの傷痕から物語を紡ぐことである。『ミザリー』(矢野浩三郎訳、文春文庫・1089円)には、作家の体に残っている傷痕について尋ねてみれば、どんな小さな傷についても答えが返ってくる、という箴言(しんげん)がある。「大きな傷からは作品が生まれる」とも。 不幸な事故によって一人では歩けなくなったポール・シェルダンは、自身の熱狂的なフ

    スティーヴン・キング、デビュー50周年 「書くこと」の多面性を描く 阿津川辰海|好書好日
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    okbc99 2024/05/22
  • 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。|好書好日

    九段理江さん=撮影・武藤奈緒美 第170回 芥川龍之介賞受賞作「東京都同情塔」 舞台は、ザハ・ハディドによる国立競技場が世論に翻弄されることなく完成した、もう一つの東京。犯罪者を同情されるべき人々=「ホモ・ミゼラビリス」として手厚く扱うべきという社会学論が一世を風靡し、まるでタワマンのような刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。建築家・牧名沙羅は、それが当に建てられるべきなのか、生成AIやナンパした美しい青年・拓人と言葉を交わしながら自身の考えを構築しようとするが――。 読むより先に書いていた 「私、よく人間ぽくないって言われるんですよ。小さい時から親にも、りえちゃんは人間じゃないからねって言われてました」 そう言って逆光のなか悠然と微笑む九段さんは、たしかにVRのようだ。 受賞歴も常人離れしている。2017年、18年と2年連続で文學界新人賞の最終候補に。2021年で見

    【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。|好書好日
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    okbc99 2024/04/05
  • 「“ナチス擁護論”に自信を持って反論」 大賞受賞の小野寺さん・田野さん 「紀伊國屋じんぶん大賞2024」贈賞式|じんぶん堂

    記事:じんぶん堂企画室 「紀伊國屋じんぶん大賞2024」の大賞を受賞した小野寺拓也さん(左)と田野大輔さん 書籍情報はこちら 今回で14回目となる「紀伊國屋じんぶん大賞2024 読者と選ぶ人文書ベスト30」は、2022年11月から23年11月に刊行された人文書を対象として、読者のアンケートをもとに書店員らがベスト30を選定。23年12月に受賞作が発表されました。 大賞を受賞した『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』は東京外国語大准教授の小野寺拓也さんと甲南大教授の田野大輔さんの共著。このはネットなどで繰り返される「ナチスは良いこともした」という言説について歴史学の視点から検証。ナチスの政策を歴史的な文脈や背景に目を配って検討することで、「ナチス肯定論」に潜む危うさを浮き彫りにしていきます。 贈賞式のスピーチに登壇した小野寺さんは「多くの読者の方々からの支持によって(大賞を)頂けたこと

    「“ナチス擁護論”に自信を持って反論」 大賞受賞の小野寺さん・田野さん 「紀伊國屋じんぶん大賞2024」贈賞式|じんぶん堂
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    okbc99 2024/02/26
  • 宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」 生きているだけで世界を幸せにする唯一無二の主人公 書評家・杉江松恋「日出る処のニューヒット」(第10回)|好書好日

    おもしろさに驚いたデビュー作 ついにこの日が来たか。 宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)を今月はお薦めしたい。 『成瀬は信じた道をいく』が出たからには取り上げざるをえない。現在進行形のシリーズで、成瀬あかり以上の魅力を備えた主人公の小説は存在しないからだ。主人公の造形も、それを読者に印象付ける作者の技能も際立っている。 書は2023年3月に刊行された宮島のデビュー作、『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)の続篇である。『天下』は6話を収録した連作短篇集で、巻頭の「ありがとう西武大津店」は、第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞した。『小説新潮』2021年5月号に掲載されたのを私は読んだのだが、あまりのおもしろさに魂が抜けるほどに驚いた。数々の才能を輩出してきた新人賞なのである程度心の準備はできていたが、その予想をはるかに上回る出来だったのだ。

    宮島未奈「成瀬は信じた道をいく」 生きているだけで世界を幸せにする唯一無二の主人公 書評家・杉江松恋「日出る処のニューヒット」(第10回)|好書好日
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    okbc99 2024/01/25
  • 書評家・杉江松恋が読む第170回直木賞候補作 混戦のなか、加藤シゲアキの新境地と「ともぐい」の技巧が光る(「日出る処のニューヒット」特別編)|好書好日

    どれが受賞してもおかしくない こんなに受賞予想が難しい直木賞はひさしぶりだ。 1月17日に選考会が開かれる第170回直木賞は、いつもより多めの6作が候補となった。 ・加藤シゲアキ『なれのはて』(講談社)2回目 ・河﨑秋子『ともぐい』(新潮社)2回目 ・嶋津輝『襷がけの二人』(文藝春秋)初 ・万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)6回目 ・宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)4回目 ・村木嵐『まいまいつぶろ』(幻冬舎)初 難しい、当に難しい。 直木賞の候補作は文藝春秋社員で構成される予選委員会によって決定される。それが傑作ばかりならいいのだが、時には首を傾げたくなるような作品が候補に入ることもある。今回に限ってはそれがなく、どの作品が受賞してもおかしくない充実ぶりなのである。やればできるじゃないか直木賞。 この「好書好日」で連載中の〈日出る処のニューヒット〉では、直木

    書評家・杉江松恋が読む第170回直木賞候補作 混戦のなか、加藤シゲアキの新境地と「ともぐい」の技巧が光る(「日出る処のニューヒット」特別編)|好書好日
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    okbc99 2024/01/16
  • ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」 美しい小説、売れ始めたきっかけは|好書好日

    夜、棚に目をやり、視界の端に入ればいつも寂しい、あの静けさと共に、ああ、美しい小説だったと思い出す。たまに手に取り、一文一文を噛(か)み締めている。大切なのひとつだ。 刊行は九年前。翻訳の賞を取り、海外文学の読者の間では、小さくない話題になった。その後二年三年と経っても、ふと話題にのぼる小説だったし、自店の店頭でもゆっくり動き続けた。けれどそれは決して、派手な動きでもなかったはずだ。 今年一月、MARUZEN&ジュンク堂渋谷店閉店の日に、ウェブメディア「オモコロ」にて、「巨大書店で戦え!屋ダンジョン・バトル」という記事が公開された。一見ふざけているようで、愛をもって書店を楽しみつくす、感動的な記事だった。 同記事の途中で、ライターの原宿氏によって、熱をもって語られるのが書だった。唐突に書名を目にした瞬間、私にはまた、冒頭に書いたような寂しい感慨がわきあがった。 その熱がきっかけとな

    ジョン・ウィリアムズ「ストーナー」 美しい小説、売れ始めたきっかけは|好書好日
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    okbc99 2023/11/07
  • 小川哲さん「君が手にするはずだった黄金について」インタビュー 主人公は自分「承認欲求ってよくわからない」|好書好日

    小川哲さん=家老芳美撮影 小川哲(おがわ・さとし) 1986年、千葉県生まれ。東京大学大学総合文化研究所博士課程退学。2015年、「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。『ゲームの王国』で第31回山周五郎賞、第38回日SF大賞を受賞。2023年、『地図と拳』で第168回直木賞。『君のクイズ』で第76回日推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞。 「俺って変わり者だったんだ」 ――以前のインタビューで「小説を書く時にはなにかひとつ新しいことをすると決めている」とありました。作に対しての新しい挑戦は。 やはり、主人公を自分にしたことですね。こののテーマは「小説家を主人公に据えて、小説とは何かを書く」だったのですが、だったら架空の小説家より「小川哲」にしたほうがより迫って書けると思って。これまでは、満州とかクイズとか、自分の全く知らない世界を調

    小川哲さん「君が手にするはずだった黄金について」インタビュー 主人公は自分「承認欲求ってよくわからない」|好書好日
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    okbc99 2023/11/02
    “ぼくは「いい小説だ」って誰かに言ってもらうためじゃなく、自分がいいものを書けたって思うために小説を書いています。逆に自分が納得できていれば、他人に何を言われようがあまり気にならないですね。”
  • 「ウクライナ動乱」 いつかくる戦後を考えるために 朝日新聞書評から|好書好日

    ウクライナ動乱 ソ連解体から露ウ戦争まで (ちくま新書) 著者:松里 公孝 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット 「ウクライナ動乱」 [著]松里公考 これまで、ロシアによるウクライナ侵略の原因については、多くの分析が行われてきた。だが、仮にウクライナが自国の防衛に成功したとして、その後はどうなるのだろうか。この問いに答えるには、ウクライナ国内の状況を知る必要がある。書は、ウクライナ政治研究の第一人者が、この戦争歴史的な背景を解説した作品だ。その特徴は、ソ連解体以後、ロシアとNATOの対立とは異なる論理で、ウクライナ国内でも分離紛争が生じた経緯を描く点にある。 この紛争の起源の分析は実に興味深い。今日では、ロシア語話者の多い東部・南部とウクライナ語話者の多い西部の民族的な対立が強調されがちだが、それは後から生じた対立にすぎないと著者は言う。むしろ、根的な問題は経済だ。元

    「ウクライナ動乱」 いつかくる戦後を考えるために 朝日新聞書評から|好書好日
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    okbc99 2023/09/23
    “だが、著者は14年以降、特務機関の許可を取って東部地域に入り、殺し合いを行う双方の勢力から話を聞き出している。ここまでして紛争の実態に迫った研究者は世界でも極めて少ない。”
  • 鴻巣友季子の文学潮流(第5回) 映画「バービー」は日本でうけてる? 「死」と「不安」のダブルミーニングを読み解く|好書好日

    自分ツッコミにあふれた世界 グレタ・ガーウィグ監督、マーゴット・ロビー主演の映画「バービー」(マテル・フィルムズ制作)が日でも公開された。玩具メーカー・マテル社が1959年から販売してきたドールを実写化した映画で、バービーたちが暮らすバービーランドには明るいピンクの街並みが広がり、おしゃれな装いの有能な女性たちが闊歩する。しかしその表層的意匠とは裏腹に、生きること死ぬことの意味をめぐり実存主義的な問いかけをも擁した作品だ。 「世界的大ヒット」と銘打たれているが、日の興行成績はそこまでではなさそうだ。まず、原爆の父を描いた映画「オッペンハイマー」と「バービー」をかけ合わせた、きのこ雲を使ったコラージュ画像に米国公式アカウントが好意的なリプライを付けたことがイメージダウンにいくらか荷担した感は否めないのだが、コメディ映画なのにゲラゲラ笑って観ている人が少ないのではないか? 私は東京近県のシ

    鴻巣友季子の文学潮流(第5回) 映画「バービー」は日本でうけてる? 「死」と「不安」のダブルミーニングを読み解く|好書好日
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    okbc99 2023/09/04
  • YATO(東京) 「ラクになってしまう」と教師を辞め、本屋空白地帯の両国に作った「自分が居心地のいい店」|好書好日

    地縁血縁はないけれど、なぜかよく行く街というものがある。相撲の聖地・両国が、私にとってはそのひとつだ。とはいえスー女だからではなく、以前は友人の家に、ここ数年は関東大震災で犠牲になった朝鮮人の追悼式に通っているから。しかもつい最近、また別の友人が引っ越して来たので、さらによく行くようになっていた。でも両国ってちゃんこ屋は多いけど、屋がないんだよなあ……。 と思いながらてくてく歩いていると、「YATO」という文字と並んで「BOOKS GALLERY COFFEE AND MORE」と書かれた看板が目の端を通り過ぎた。えっ? 印象的なロゴは静岡在住のデザイナー亀澤希美子さんとバランスを考えに考えて作ったもの。 その場所はJR両国駅から歩いて約10分の横網町公園近く。木枠にガラス張りの扉の奥に、棚らしきものが見える。これは素通りできない。中に入ってみると、縦長のスペースの両端にが並んでいた

    YATO(東京) 「ラクになってしまう」と教師を辞め、本屋空白地帯の両国に作った「自分が居心地のいい店」|好書好日
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    okbc99 2023/08/18
  • 「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督が、新作映画について語っていたこと。そして吉野源三郎のこと|好書好日

    宮崎駿監督の新作「君たちはどう生きるか」ポスター=スタジオジブリのTwitterより 「私自身、訳が分からない」 「おそらく、訳が分からなかったことでしょう。私自身、訳が分からないところがありました」。 2023年2月下旬、東京都内のスタジオで上映された、「君たちはどう生きるか」の初号試写。米津玄師の歌うピアノバラードが流れ、エンドロールが終わった瞬間、灯りが点き、宮崎駿監督のコメントが読み上げられた。 客席から軽い笑い声が漏れた。私もその一人だった。あまりの展開の速さと、盛り込むだけ盛り込まれた情報を消化しきれず、茫然と座り込んでいたが、その言葉で我に返った。 これは「宮崎アニメ」の集大成なのか、吉野源三郎の著書『君たちはどう生きるか』の再解釈なのか。とにかく、1回見ただけではとても全容を把握できなかった。 「自分のことをやるしかない」 今回の作品は、公開前のプロモーションも、メディア関

    「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督が、新作映画について語っていたこと。そして吉野源三郎のこと|好書好日
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    okbc99 2023/07/14
  • 書評家・杉江松恋が読む第169回直木賞候補作 大混戦! 月村了衛「香港警察東京分室」の受賞で大衆小説の世界は変わる(「日出る処のニューヒット」特別編)|好書好日

    書評家・杉江松恋が読む第169回直木賞候補作 大混戦! 月村了衛「香港警察東京分室」の受賞で大衆小説の世界は変わる(「日出る処のニューヒット」特別編) 候補全作にミステリー的な要素が濃い 『地図と拳』一強だった前回とうって変わって群雄割拠の状況である。 第169回直木賞の選考会が7月19日に迫っているが、今回の受賞予想は難しい。 世評の高さでいえば、先日第36回山周五郎賞を受賞した永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』が頭ひとつ抜けていると思うのだが、私は同作を命に推し切れない。好みで言えば月村了衛『香港警察東京分室』である。アクション小説なのだが志が高く、月村には未来の大衆文学界を背負っていってもらいたいと考えている。だが、今回が初候補ということもあり、どのくらいの票を集めるのか読みにくいのだ。初候補が1作、2回目が2作、3回目が2作で、これはほぼ横並びと見るべきだ。 個別に作品を見ていこう

    書評家・杉江松恋が読む第169回直木賞候補作 大混戦! 月村了衛「香港警察東京分室」の受賞で大衆小説の世界は変わる(「日出る処のニューヒット」特別編)|好書好日
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    okbc99 2023/07/13
  • 差別や偏見を含んだ古典、新訳やリメイクが与える新たな視点 鴻巣友季子の文学潮流(第3回)|好書好日

    先日、演劇界のアカデミー賞と言われるトニー賞が発表されたが、ミュージカル作品賞に禁酒時代のシカゴを舞台にした「お熱いのがお好き」が候補入りしていて驚いた。あのマリリン・モンロー演じる白人の、ブロンドの、美女の、セックス・シンボルが旋風を巻き起こしたコメディ映画(1959年、ビリー・ワイルダー監督)の舞台化。しかもギャングに追われた主役のバンドマン2人が女装して女性だけの楽団に入団する。いろいろな意味で差別と偏見(とみなされうるもの)の地雷原みたいな内容なのである。 まだ観劇できていないが、当世のブロードウェイらしいリメイクに仕上がっているようだ。モンローの演じたシュガーには黒人の女優が、バンドマンのジェリーにはノンバイナリーの俳優が配され、同性婚の描き方を含め、ジェンダーとセクシュアリティの揺らぎが表現されているらしい。 いまアメリカを真っ二つにしている論点というと、ジェンダーや妊娠中絶を

    差別や偏見を含んだ古典、新訳やリメイクが与える新たな視点 鴻巣友季子の文学潮流(第3回)|好書好日
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    okbc99 2023/06/29
  • 文學界新人賞・市川沙央さん 「なにか職業が欲しかった」ままならぬ体と応募生活20年の果てに 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#1|好書好日

    第128回文學界新人賞 受賞作品「ハンチバック」 親が遺したグループホームで裕福に暮らす重度障害者の井沢釈華。Webライター・Buddhaとして風俗体験記を書いては、その収益を恵まれない家庭へ寄付し、Twitterの裏垢では「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢」と吐きだす。ある日、ヘルパーの田中に裏垢を特定された釈華は、1億5500万円で彼との性交によって妊娠する契約を結ぶ――。 療養生活という名の引きこもり 取材は市川さんが両親と暮らす自宅で行われた。お母さんに案内された部屋で、市川さんと目が合った瞬間、その射貫くような眼差しに気圧された。市川さんは筋疾患先天性ミオパチーという難病により、人工呼吸器を使用しているため、発話に大変な体力を使い、リスクもある。そのため取材も、あらかじめメールで回答をもらい、補足のみ、最小限お話いただく形をとった。 目力の強さはそれが市川さ

    文學界新人賞・市川沙央さん 「なにか職業が欲しかった」ままならぬ体と応募生活20年の果てに 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#1|好書好日
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    okbc99 2023/05/28
  • 「街とその不確かな壁」書評 往還やまず 語り直し語り継ぐ|好書好日

    「街とその不確かな壁」 [著]村上春樹 唯一無二の文体と比喩で新しいことばのシステムを築きあげ、現実の自明性をフィクションの力でパラレルに切り裂いていく。「なにを語るか」と同じかそれ以上に「いかに語るか」で現代日文学を更新したこの作家のなりたちと特異性を、作はどの過去作よりもよく伝える。 というのも物語の最初のパートは、1980年に発表した中編小説の2度目の書き直しになっている(1度目は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』)。もちろんそんな背景知識なしで十分読めるが、作中で主人公が描く街の地図のように、作家が繰り返し描き直すその場所は、村上ワールドの根幹をなす心象世界だ。 17歳の時に深く愛したひとつ年下の少女は、当の自分は壁のなかの街に住んでいると「ぼく」に告げ姿を消す。45歳になってなお少女の面影を追い求める「私」は、夢に導かれるように福島の山間の図書館長となり、風変わ

    「街とその不確かな壁」書評 往還やまず 語り直し語り継ぐ|好書好日
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    okbc99 2023/05/14
  • ユートピアを求めることの虚しさ――アンドレイ・プラトーノフ『チェヴェングール』|じんぶん堂

    記事:作品社 アンドレイ・プラトーノフ(1899-1951) 書籍情報はこちら 翻訳者が抱く素朴な願いとしては、『チェヴェングール』という作品をなるべく多くの人に読んでもらいたい。しかし、『チェヴェングール』は明らかに難解な作品である。そこで稿は、作中で重要な意味を持つと感じられたキーワードを解説し、読者の作品理解の一助としたい。取り上げるのは、「作為」と「自然」、そして「虚しさ」の三語である。 書のあらすじ 舞台は20世紀初頭のロシア。1917年のロシア革命を挟んで激変する社会の中で、革命の意味やより良い生を求めて試行錯誤する人びとが描かれる。 ロシアのある農村で工作物の修繕をしていた職人のザハール・パーヴロヴィチは、飢饉に見舞われた村を出て、町で鉄道修理工として働きはじめる。彼はそこで同郷の孤児アレクサンドル(サーシャ)を発見し、引き取ることにする。サーシャは、死への興味に取り憑か

    ユートピアを求めることの虚しさ――アンドレイ・プラトーノフ『チェヴェングール』|じんぶん堂
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    okbc99 2023/04/24