こんな話がございます。 備中は成羽郷の山奥に、木の村という小さな村がございます。 その村の神社の境内に、二つの大きな岩がございまして。 村の者たちは「夫婦岩(みょうといわ)」と呼んでいるそうでございますが。 その二つの岩の間、正しくはうち片方の岩に寄り添うようにして、小さな岩が一つある。 小さなと申しましても、人の背丈よりはゆうに大きい。 どうしてこれが夫婦岩と呼ばれているのか。 それには、こんな謂われがあるそうでございます。 昔、この村に甚兵衛という力持ちの大男がおりました。 村の力比べなどには必ず顔を出して、自分の頭より大きい岩でも難なく持ち上げてしまう。 そんな甚兵衛にも勝てないものが一つありまして。 それが女房のおカネという、これまた力持ちの大女。 向こうっ気もたいそう強いが、それ以上に働き者でございます。 一方の甚兵衛はと申しますト。 これは絵に描いたようなならず者で。 働きもせ