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  • 焼き場の妖異が我をたばかる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 遠きいにしえより、我が朝におきましては。 辻占(つじうら)だの、橋占(はしうら)だの。 そういったものをよく行います。 夜明け前や黄昏時ナド、薄暗く寂しい頃合いに。 四ツ辻や橋のたもとにひとり立ちまして。 行き交う人々の言葉にじっと耳を傾ける。 そうして事の吉兆を占うものでございます。 かの平清盛の娘が身籠ったときも。 母の時子が一条戻橋へ出かけまして。 橋占を行ったトもうします。 そのとき通りかかった童たちの言葉の中に。 「国王」トあったのを耳にいたしますト。 生まれてくる子は天子様になるに違いないト。 大いに安堵いたしたそうでございますが。 これが後の安徳帝なのだから、占いも侮れませんナ。 ところで、どうしてそんなところで占うのかト申しますト。 人通りの繁しい場所は、霊力も強かろうト考えたからで。 人ならぬ霊異が人の口を借りて。 神の意を語り示すトいうのでござい

    焼き場の妖異が我をたばかる | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
  • 我が背子、夢を覗かれよかし | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 播州は室津、室の泊まりト申しますト。 古くヨリ栄えた湊町でございまして。 また、我が朝の遊女の始まりの地トモ申します。 平安の昔、木曾義仲の愛妾、山吹御前が。 義仲亡き後、この室津の町へ流れ着くや。 友君ト名乗り、評判の「うかれめ」トなったトいう。 これが室津の遊女の起こりでございまして。 以来、この地第一の遊女を「室君」トカ申します。 さて、時代は下り、戦国の世。 周防の大名、大内義隆のその家中に。 浜田与兵衛ト申す剛の者がございましたが。 ある時、この室津の町に立ち寄りますト。 少し変わった女ト巡りあった。 名を但馬(たじま)ト申しまして。 年の頃は十六、七。 滑り落ちそうな撫で肩に。 触れれば折れそうな柳腰。 実に頼りのない女でございますが。 顔貌(かおかたち)はいと麗しく。 琴を奏でれば妙なる調べ。 舞えば天女のたおやかさ。 歌を詠めば小町もかくやの才覚で。

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    onboumaru 2019/12/23
    浅井了意「伽婢子」より
  • 紙人形の娘たち 張奇神 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 湖南に張奇神ト申す男がございまして。 もっとも、これは秘密の二つ名でございましたが。 土地では誰もが張奇神の名を知っている。 だが、それが誰なのかを知る者は多くございません。 ト、申しますのも、この男。 昼は善良な農夫として暮らしている。 それが、夜の帳が下りますト。 せっせト裏の稼業に勤しみます。 摂魂士ト申しますのが。 その夜の顔でございました。 どんな術を使うかト申しますト。 魂を自在に抜き取ることができるトいう。 ただ抜き取るだけなら人殺しでございますが。 摂魂術ト申すものはそうではない。 寝ている間に魂を抜き取りまして。 目覚める前にもとの体へ戻してやる。 魂を摂られた側はどうなるかト申しますト。 日頃の己とはまったく異なる姿になり。 寝ている間に行ってこられる場所ならば。 何処なりと望み通りに赴くことができるトいう。 では、どうし

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    onboumaru 2019/10/04
    清代の志怪小説「子不語」より
  • 葛飾北斎 ―画狂老人は一処に安住せず― | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    KATSUSHIKA HOKUSAI 転居93回、改号30回。北斎は当に奇人だったのか 欧米での信仰的とも言える評価に反して、日での北斎評はまず「奇人」である。 そのイメージは、飯島虚心の著した明治期の評伝「葛飾北斎伝」によるところが大きい。 序文にはっきりと「画工北斎畸人也」とあり、また家の中はごみまみれで、ために93回も転居したとある。 どうやら、絵を描くこと以外はまるで無関心だったようだ。 無愛想で人付き合いが悪く、金には無頓着だった。 掛取りが来ると、机の上に置きっ放しだった画工料を、包みのままどんと投げてよこしたという。 それでもっていかないといけないから、一説では己の画号を弟子に譲って金に変えた。 それが30回という異常な改号の多さにつながったともいう。 (※クリックで拡大します) 晩年の弟子露木為一による「北斎仮宅之図」 虚心が露木から提供されたもの (左の女性は娘のお

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  • 横浜元町と三島文学『午後の曳航』 - 欧州ブログ:楽天ブログ

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    onboumaru 2019/07/01
  • ヨーロッパ華麗なる名家!ハプスブロク、ブルボン、メディチ家は西洋絵画の歴史を変えた!

    こんばんは!ビー玉です。 2019年10月19日(土)~2020年1月26日(日)に開催が決定している「ハプスブルク展」で、あの美少女が来日します! 日は西洋絵画とは切っても切り離せないヨーロッパの名家の世界に、あなたをナビゲートします。 お時間よろしければ、さいごまでお付き合いください。 では、ヨーロッパの歴史に大きく影響した名家と名家にをいくつか紹介いたしましょう・・ ハプスブルク家(オーストリア・スペイン)数多くの王朝が乱立するヨーロッパにおいて、もっとも長く700年にもわたり頂点に君臨し続けた名門中の名門が「ハプスブルク家」です。 ハプスブルクといえばオーストリアのイメージですが、発祥の地は意外にもスイスです。 家名の由来は11世紀にスイスに築城された「大鷹の城」という意味を持つ「Habichtsburg(ハビヒツブルク)城」に由来します。 スイス北部アールガウ州に佇む古城ハビヒ

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    onboumaru 2019/07/01
  • 業平と芥川の人喰い倉 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 在原業平(ありわらのなりひら)ト申しますト。 ご承知の通り、色男の総元締めみたいな嫌な奴で。 生まれは高貴にして、容姿は眉目秀麗であるばかりか。 美女に目がなく、狙った獲物は必ず手に入れるトいう。 天照大神に仕える伊勢斎宮でさえも。 神前にて潔斎中の身でありながら。 コロッと落ちてしまったトカ申します。 なんとも罰当たりな男でございますナ。 さて、この色男の業平にも。 肝をつぶす出来事がございまして。 ようやく我々も溜飲を下げられる。 これこそバチがあたったのだトモ申せます。 なにせ、このときモノにしようとした相手と申しますのが。 伊勢斎宮に勝るとも劣らぬお方でございまして――。 あるとき、右近の中将在原業平朝臣は。 ある人の娘が絶世の美女であると耳にした。 そうなるト、居ても立ってもいられないのが色男。 さっそく、あれやこれやト言い寄り

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    onboumaru 2019/06/20
    伊勢物語、今昔物語集より
  • 奥州安達原 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 京の都のさる公卿のお屋敷に。 名を岩手の局ト申す女がおりましたが。 この者は姫君の乳母でございまして。 我が仕える姫君を、それはそれは大事に育てておりました。 ところが、この姫君ト申しますのが。 生まれつき病に冒されておりまして。 五歳になっても一向にものを話しません。 岩手は姫君が不憫で不憫で仕方がない。 そこである時、易者にこれを打ち明けますト。 いつの世も易者ト申しますものは。 無責任な輩ばかりでございますので。 「まだ女の腹の中におるままの、赤子の生き肝をわせるより他にない」 ナドと吹き込んだ。 岩手は姫君が可愛くてなりませんので。 どうしても赤子の生き肝を手に入れたい。 その思いにすっかり取り憑かれてしまいまして。 生まれたばかりの娘を人に預け。 首には赤いお守り袋を掛けてやる。 「母岩手」ト書かれた形見の品。 「かかさまがお

    奥州安達原 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2019/06/14
    謡曲「安達原(黒塚)」より
  • 熱海初島 お初の松の由来 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 伊豆国熱海を、南東の海上へ去ること三里。 名を初島ト申す小島が、沖に浮かんでおりますが。 この島の開闢は、さる姫君の漂着から始まったトカ申します。 その昔、日向国に初木姫ト申す美しい姫がおり。 何の因果かこの島へ流されてまいりまして。 毎晩、無人の島から寂しく対岸を眺めましては。 焚き火を焚いて人の気配を求めておりました。 やがてこれに気づきましたのが。 伊豆山の伊豆山彦ト申す一柱の神。 さっそく姫は萩で筏を組みますト。 いとしい男神に相まみゆるべく。 どんぶらこ、どんぶらこ。 海を渡っていったトいう。 その育てた子らの末裔が。 今の伊豆山権現であるト申します。 さて、この初島の船着き場に。 遠く伊豆山を望むように立つ大きな松がある。 名を「お初の松」ト申しますが。 その由来にはこんな秘話がございます。 初島にまだ人家が六戸しかなかったころ。 そのうちの一軒に娘がひ

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    onboumaru 2019/05/24
    伊豆の伝説より
  • 杏生と二人のお貞 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 越後国は新潟湊に、若い医者がおりまして。 名を長尾杏生(ながおきょうせい)ト申しましたが。 これが目鼻立ちの整った好男子でございます。 年は二十歳を過ぎたばかりながら。 洒落っ気もあれば、品性も良い。 女たちの注目を一身に集めておりました。 ある時、トある妓楼に呼ばれて参りますト。 芸者がひとり床に臥せっている。 名をお貞(てい)ト申しまして。 長らく気を患っているトいう。 「お医者さん」 「どうしました」 布団からだらりと飛び出した白い手を。 軽く掴んで脈をとっておりますト。 虚ろな眼差しをそむけたまま。 恥じらうように女がそっと言いました。 「私、もう長くないんでしょう」 「馬鹿を言いなさい。気くらいで死ぬ人はいませんよ」 女は年の頃、二十二、三。 結い髪はとうに崩れており。 後れ毛が鬢から力なく垂れている。 病身の隠微な美しさ。 「それでも、他のお医者さん

    杏生と二人のお貞 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2019/04/15
    「夜窓鬼談」より
  • 仏教説話の怖い話より 「朽ちても朽ちぬ赤い花」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 都が奈良にあった頃の話でございます。 大安寺に弁西ト申す僧がございまして。 この者は白堂(びゃくどう)を生業トしておりましたが。 白堂トハなにかト申しますト。 欲深き民百姓どもがお寺にやってまいりまして。 あれやこれやト願い事を口にいたしますが。 その願いを仏に取り次いでやる者のことを申すそうで。 「子宝に恵まれとうございます」 「病身の母がどうか回復いたしますよう」 「縁結びをどうかひとつ」 ナドと、好き勝手なことを口々に申しますが。 弁西は嫌がる気色は微塵も見せず。 そのすべてを漏らさず書き留めてやり。 一つ一つを民に代わって丁寧に。 御仏(みほとけ)へ奏上いたします。 中には己のかつて犯した罪業の。 お目こぼしを求めに来る輩もある。 「実はむかし、朋輩を手に掛けたことがございます」 「隣の家の倅を人買いに売り渡しました」 「米蔵に盗みに入ったのは私でございます

    仏教説話の怖い話より 「朽ちても朽ちぬ赤い花」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/12/20
    「日本霊異記」より
  • 月岡芳年 ―「血みどろ」絵師は「生」を見つめた― | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    TSUKIOKA YOSHITOSHI 「血みどろ」の時代 月岡芳年(つきおか よしとし)は「血みどろ」の絵師である。 妖と奇の巨人、歌川国芳に師事し、兄弟子に落合芳幾、河鍋暁斎らがいた。 一魁斎、玉桜楼などと号したが、最後は大蘇芳年と名乗っている。 出世作は、慶応二年刊行の「英名二十八衆句」、同四年すなわち明治元年の「魁題百撰相」。 両作の成功により、「血まみれ芳年」の異名をとった。 (※クリックで拡大します) 痴情のもつれによる殺人を報じた郵便報知新聞の記事より。 芳年の挿絵が今で言う報道写真の役割を果たした。 めくるめく生首、血しぶき、死に顔、鮮血のオンパレード。 残虐とグロテスク、怪奇、猟奇に満ちている。 「無惨絵」「残酷絵」「血みどろ絵」などと称される新ジャンルを切り拓いた。 同じく郵便報知新聞に提供した挿絵。 追い剥ぎに遭った女二人が、狼にわれた事件を描いたもの。 だが、その

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  • 中国の怖い話より 「画皮 美女の化けの皮」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 清国の話でございます。 太原に王某ト申す士大夫がおりまして。 朝の散歩に出ておりましたが。 まだ霧深い森の中。 その靄へ吸い込まれてゆくが如く。 女がひとり歩いているのが見えました。 小さな体に大きな包みを抱えている。 まるで旅でもしているかのような格好で。 王は不審に思い、後を追う。 「もし、お嬢さん」 ト、声を掛けましたが。 女は振り返りもしない。 黙って歩いていくばかり。 王はますます不審に思い。 歩みを早めて追いつきますト。 並んで歩きながら、女を見た。 見れば、顔つきはまだ幼げで。 年の頃は十六、七でございましょう。 みずみずしい若さの中に。 凛とした美しさがございます。 「こんな朝早くにひとりでどこへ行くのです」 娘は伏し目がちな憂い顔を。 さらに深く沈ませまして。 「所詮は互いに行きずりの仲。憂愁を分かちあえるものではございません」 ト、顔立ちに似合わ

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    onboumaru 2018/11/24
    清代の伝奇小説「聊斎志異」より
  • 落語の怖い話より 「鰍沢(かじかざわ)」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ご承知の通り、法華の総山ト申しますト。 身延山(みのぶさん)久遠寺でございまして。 これは山がちで知られる甲斐の国の。 さらに深い山の奥でございます。 ときは冬。 吹雪の激しい日のことで。 振り分け荷物の旅人が。 参詣道を急いでいる。 法論石から小室山。 毒消しの護符を授かりまして。 富士川を下って身延へ参るべく。 これから鰍沢(かじかざわ)へ出ようという。 駿府まで急流が下る富士川の。 大きな河岸(かし)のひとつが鰍沢。 折からの大雪に足を取られ。 日暮れまでに抜けられそうにもない。 とはいえ、野宿もしようにない。 行けども行けども雪景色。 このままでは凍え死んでしまう。 そう心細く思っておりますト。 遠くに人家がポツンと見えてきた。 「御免ください」 あばら家の板戸をドンドン叩く。 ガラリと出てきましたのはひとりの女。 どうかト一夜の宿を乞うト。 どうぞト中へ

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    onboumaru 2018/11/22
    三遊亭圓朝作の三題噺より
  • 民話の怖い話より 「鬼婆が血となり肉となる」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 ある山奥の貧しい村に。 竹林に囲まれたぼろ屋がございまして。 老婆と孫娘が二人で暮らしておりましたが。 夜空に月が白く冴えた。 ある秋のことでございます。 高く伸びた竹がゆらゆら揺れる。 竹の葉がさらさら音を立てる。 風がかたかた板戸を鳴らす。 「おばば。寒くて眠られない」 「よしよし。おばばの布団へおいで」 おばばは齢六十で。 孫娘の志乃は十六で。 おばばには倅が三人おりましたが。 この数年で次々と亡くなってしまい。 残されたのはこの志乃ひとりでございます。 ほかに身寄りのないおばばは。 志乃を心底可愛がっておりました。 トハいえ、まだまだ子供と思っておりましても。 世間では十六といえばもはや年頃でございます。 現に、ひとつ夜着の中で身を寄せ合っておりましても。 志乃の体つきが小娘から娘に変わりつつあるのがよく分かる。 「志乃にもそろそろ婿を探してやらねばならんの

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    onboumaru 2018/10/16
    福井の民話より
  • 江戸怪談より 「長いものは窓より入る」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 三代家光公の御世のこと。 豊前国小倉藩は細川殿の領国でございましたが。 その隷下に高橋甚太夫ト申す弓足軽の大将がおりました。 この者は曲がりなりにも大将トハいいながら。 武士の風上にも置けぬ小人物で。 いま、足軽トハいえ大将の職責にありますのも。 実は同僚の手柄を盗んで奏上したためであるという。 ところが、この者がそれでもなんとかやっておりますのは。 一にも二にも、この者には惜しいほどのよくできたがあったためで。 は名を千鶴ト申しまして。 近在の百姓の娘でございましたが。 容姿は地味ながら美しく。 人となりはしとやかで慎み深く。 まさにその名が示す通り。 掃き溜めに鶴といった趣で。 さて、この頃は諸国大名の国替えが頻繁に行われておりましたが。 細川殿もかの肥後国熊藩へ転封と相成りました。 夫婦は初めて生まれ故郷を離れましたが。 亭主は異国暮らしに浮かれたものか

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    onboumaru 2018/10/06
    片仮名本 因果物語より
  • 中国の怖い話より 「幽女を見る目」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 唐土(もろこし)の話でございます。 越の紹興に沈某という若者がございまして。 この者の住処は東岳廟の参詣の途次にございました。 東岳廟トハ何ぞやト申しますト。 これは泰山府君を祀るもので。 では泰山府君トハ何ぞやト申しますト。 これは寿命を司る神でございます。 それ故、泰山府君は非常に篤い信仰を集めている。 参道は人出も多く賑やかでございます。 沈は参詣客たちに自宅で酒を振る舞っておりました。 我が朝で申さば、さしづめ伊勢の御師みたいなものでしょうナ。 さて、三月二十八日は泰山府君の誕辰。 つまり生誕日でございます。 参道はひときわ賑やかとなりまして。 沈家の門内も押すな押すなの大盛況。 沈も客たちの世話に馳せまわっておりましたが。 その喧騒という泥中に。 咲く蓮の花のごとき女の姿。 高貴な身なりの若い女人が。 外から門内を覗く姿がちらりト見えた。 その身は人形

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  • 鬼女の乳を吸う | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 都が奈良にあったころの話でございます。 陽は山の端に傾き入り。 群青の闇が押し寄せる中。 墨を引いたように続く一道を。 ぽつぽつ歩く人影がひとつ。 これは名を寂林(じゃくりん)ト申す旅の僧。 まだ三十路にも手の届かぬ若い聖でございます。 十六年前に故郷を出て以来。 諸国行脚の修行の最中で。 僧にもかつて愛しい母がおりましたが。 その母が不慮の死を遂げましたのを機に。 母への、土地への、根深い執着を断たんがため。 一念発起、国を捨てたのでございます。 さて、ここは大和国は斑鳩の。 寂林法師のその生まれ故郷。 長年の修行は心を堅固にし。 もはや、母へも国へも何ら想いはございません。 里外れの一道に。 風がひゅうひゅう吹きすさぶ。 草木がさらさらトなびきます。 ト、その時、行く手の藪の中に。 怪しき人影が見えました。 前かがみに両手を膝へ突き。 ムチムチと肉付きの良い

    鬼女の乳を吸う | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/06/04
    「日本霊異記」より
  • 落語の怖い話より「藁人形」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 江戸四宿の一、奥州街道は千住の宿。 ここは小塚原(こづかっぱら)の刑場に近いためか。 はてまた、掘れば罪人の骨(こつ)が出るためか。 一名を「コツ」ト申しますナ。 さて、このコツに立ち並ぶ女郎屋を。 一軒一軒拝んで歩く坊主がひとり。 名を西念ト申す願人坊主(がんにんぼうず)。 千住いろは長屋、への九番に住むトいう。 良く言えば坊主でございますが。 有り体に申せば乞も同然で。 念仏の真似事をして、人様から施しを受けている。 朝は一番に観音様へお参りをし。 それから日暮れまで江戸中をもらって回る。 実に熱心なおもらいでございます。 そして、軒下に立つ西念のその姿を。 二階の手摺から見下ろしている。 美しくも、はかなげな人影がひとつ。 これは女郎屋若松の板頭(いたがしら)。 つまりこの店一番の人気女郎で。 年の頃なら二十二、三。 名をお熊ト申す、稀代の美人でございます。

    落語の怖い話より「藁人形」 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/05/20
    落語「藁人形」より
  • 苺の六郎、雪の十二郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-

    こんな話がございます。 甲斐国は身延のあたりの山あいに。 母ひとり娘ふたりの女所帯がございました。 父は五年前に亡くなりまして。 母は元々その後添えでございました。 妹娘のお君は今の母の子でございますが。 姉娘のお雪はト申しますト。 これは死んだ前の母が産んだ子でございまして。 世の中に継母と継子の仲ほど面倒なものはございません。 誰しも腹を痛めて産んだ子が可愛いものでございましょう。 前の女が産んだ子など、まるで仇も同然で。 しかも、その父親はもうこの世におりませんので。 「お雪。お前はどうしてそんなにのろいんだよッ。一体、誰に似たんだろうね」 ト、おっかあは何かにつけて姉のお雪を責めますが。 実のところ、真にのろいのは妹のお君のほうでございます。 「おっかあ」 「何だい。お君」 「あたい、苺がべたい」 時は十二月。 外は一面の雪景色。 苺は六月に実をつける。 夏の水菓子でございます。

    苺の六郎、雪の十二郎 | 砂村隠亡丸の余苦在話-よくあるはなし-
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    onboumaru 2018/04/13
    山梨の民話より