こんな話がございます。 阿波のご領主は玉木様でございますが。 昔、衛門之助様なる若殿が、色に堕ちたことがございました。 高尾ト申す傾城に、文字通り国を傾けられたのでございます。 その隙を突いてお家転覆を企てたのが。 小野田郡兵衛ト申す奸臣で。 騒ぎの中、今度は家宝、国次の刀が盗まれる。 国難に当たって、家老桜井主膳が召し出しましたのが。 かつて放逐された元家臣、阿波の十郎兵衛ト申す男でございます。 桜井主膳の密命を受けまして。 十郎兵衛とその妻お弓の二名は。 まだ幼い娘のおつるを、十郎兵衛の母に預け。 大坂へ宝刀探しに向かいました。 さて、それから幾年月が流れまして。 大坂の町には盗賊どもが跋扈している。 世に白浪、夜稼ぎと呼ばれる悪人たちの。 一味のうちに、銀十郎ト申す男がある。 浪花の町外れ、玉造にあるその隠れ家に。 女房がひとり、針仕事をしながら帰りを待っておりますト。 「もし、この