こんな話がございます。 平安の昔の話でございます。 摂津国に非常に年老いた僧がございました。 九十を超えてもなお、仏道修行に励んでおります。 いつもじっと目をつぶって、ぶつぶつと経を読んでいる。 ある時、客人が「海賊に遭いました」と言うのを聞きまして。 この僧が目をつぶったまま答えますことには、 「私も若いころには、そんなことがございました。いや、襲われる方ではなくて、襲う方でございましたがな」 トこともなげに言う。 客人はびっくりして、 「一体どういうわけで」 ト尋ねますト、老僧は昔語りを始めました。 若かりし頃、老僧は淡路六郎と名乗る海賊でございました。 ある時、安芸のあたりの島に停泊しておりますト。 一艘の船が六郎らの船の方へ漕ぎ寄せてまいりました。 若い男の姿が見えましたが、それが船主のようでございます。 覗き見ると、荷をたくさん積んではいるようですが。 貴人らしき若い男の他には、