こんな話がございます。 江州は枝村ト申す、東山道の宿場町に。 ある日、一人の美僧が現れまして。 一軒の宿屋の戸を叩きましたが。 年は二十歳ばかりにして。 見目形は尼僧かと見紛うほどで。 そのくせ、声や立ち居振る舞いは。 やはり男でございます。 その晩は大雨が降りまして。 翌日もまだ晴れません。 それ故に、この若い僧は。 昼間も居続けとなりましたが。 夜が明けてよりこの方。 この美僧の様子がどうもおかしい。 姿形はもとより優美ではございましたが。 居住まいから声音まで、すっかり女らしくなっている。 宿の亭主は、何やら怪しく思いまして。 「御坊はどちらよりお出でですかな」 ト、それとなく声をかけてみた。 「わたくしは越後の者でございますが、丹波の大野原の師匠の元にて数年修行を積みまして、これからまた越後へ戻るところでございます」 美僧は伏し目がちにそう答えました。 亭主は、丹波の事情はよく知り