評論家とは何か? それは専門的な知と世間知の間を巧みに橋渡しすることで、私たちに現実を見る目を提供する人たちであろう。さらに言えば、時には荒れ狂う大河に橋をわたすというリスクを担うことでもある。最新作『経済で読み解く織田信長』(ベストセラーズ)は、著者である上念司氏が評論というリスクを背負い、世の中に投じたスリリングな剛速球である。 上念氏の『経済で読み解く』シリーズは、「大東亜戦争」「明治維新」に続く三作目であり、ますます著者独特の歴史眼に磨きがかかってきた。しかも前二作が現代に近いこともあり、資料や研究蓄積が豊富であった。対して今回は経済史的には資料が乏しい室町・戦国時代にかけての話題である。それだけに著者の挑むハードルは格段に上がり、またそのリスクを伴うだけに読書の楽しみもより増してくる。