次のような見解は、隣接社会科学においては以前から支持されていたであろうものだが、90年代中盤以降、経済学のメインストリームにおいても一定の支持を集めているものである:(1)人間は必ずしも従来の経済学の想定するような意味では「合理的」ではない;(2)しかも合理性からの乖離は、結論の定性的性質に影響を与えないような副次的要素あるいは誤差ではなく、定性的影響を持っている;(3)そうした乖離は決してランダムなものではなく、それ自体一定の規則性を持っている。 ここでまず、経済分析に関する限りでの「合理性」の範囲を確認しておくとそれは、各個人が(I)彼自身の整合的な優先順位・達成目標を持ち、(II)それを達成するために必要な、外界に対する正確な認識と情報とを持ち合わせ、(III)それらを論理整合的に処理し、自分の優先順位にとって最適な選択を導き出すことができる、というものである。*1あくまで個人レベル