(白水社・6930円) ◇涯てしない「極上の悪夢」、恐るべき物語 気が早いが、今年の翻訳小説では断トツのベスト1だ。ドストエフスキー、プルースト、ジョイス、ガルシア=マルケス……その巨編の読み解き・謎解きに人々が永年を費やす作家たちがいる。ボラーニョも間違いなくそうした作家の一人に名を連ねるだろう。 得体(えたい)の知れない狂気の気配、世界のあちこちに現れる奇妙で不吉な啓示と暗合。この世を覆うヴェールがときおり唐突に破れ、その奧にある「世界の秘密」が剥(む)きだしになる。死後出版となった『2666』は五部から成る、涯(は)てしなく続く極上の悪夢のような小説だ。作中作があり、伝聞が重なり、エピソードは入れ子状に増殖して交差し、いきなり途切れたかと思うと思わぬラインに繋(つな)がる。イギリス、ヨーロッパ大陸、チリ、米国と舞台を移しつつ展開するが、五部すべての磁場となるのが、米国との国境にあるメ