満洲の情報基地 ハルビン学院 [著]芳地隆之[掲載]2010年10月31日[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)■ロシア専門家育成機関の実像描く 20世紀の歴史に翻弄(ほんろう)された日露(にちろ)協会学校(のちのハルビン学院)。これが素朴な読後感だが、この幹のもとにさまざまな枝葉がある。たとえば日本と革命後のロシアとの複雑な関係、外地に設立された語学教育機関の役割とその推移、軍事と語学の相互扶助の変質などをすぐに指摘できる。著者はそのすべてに目配りを続けて記述を進める。 もともとは大正9年に日露協会の幹部であった後藤新平などの肝いりでハルビンに設立される。建学精神は「学生は常に露国人に接し語学を実習し(略)彼等(かれら)の人情・風俗・習慣を直接目撃し、研究する」など5項が挙げられていた。ロシア研究をそれまでのように大陸浪人に任せるのではなく、専門的に従事するスタッフを体系だって育てよう