珍しく駅で待ち合わせた日に限って寒い。多少遅れても一度家に寄ってから来ればよかった。 改札を出たと連絡するのとほぼ同時に、硬い布にばさりと視覚を奪われ声を失いかける。それがよく知る匂いのコートでなければ、恐怖で動けなくなったかもしれない。振り返るより早く、何でそんな薄着なのと悠長な声が降ってきた。 家を出た時間には暖かったのだと答えながら、わたしのものではない上着を肩に掛け直し、立てた襟の中でスンと息を吸う。ここで要らないとつき返したところで受け取られないことも、疾うに知っているのだ。 例えばこうして並んで歩く間。それから、車で迎えに来た日。カウンターに隣り合って座る夜。そういう目が合わない状況でこの人は、少し図々しさを増す。うっすら罪悪感をおぼえる話をするときに横並びの構図を選ぶ癖は、とうとう十年変わらないらしい。 「それは無理かも」 外面のいい人がわたしに見せる厚かましい一面が好きだっ