ブックマーク / honz.jp (42)

  • 2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ

    2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめを紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽やかなエンターテイメントのように伝える著者の方たち、その裏側で悪戦苦闘を繰り広げていたであろう版元や翻訳者の皆さま。さらに読者へ届ける取次会社や書店員の皆さま、そしてHONZを愛してくださったすべての皆さま、当にありがとうございました。 サイトを閉じることになった理由に、明快なものは特にありません。こんなサイトがあったら

    2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ
  • 無限大のドルを求めた果てに逮捕された男の転落記──『1兆円を盗んだ男』 - HONZ

    1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊 作者: マイケル・ルイス 出版社: 日経BP 日経済新聞出版 発売日: 2024/6/26 この『1兆円を盗んだ男』は、『マネー・ボール』や『最悪の予感』などで知られるマイケル・ルイスの最新作。今回彼がテーマに選んだ人物は暗号資産取引所FTXを立ち上げ莫大な富を築き上げた後、2022年に逮捕されてしまった男サム・バンクマン=フリードだ。 マイケル・ルイスといえば複雑な題材であっても見事な一筋の通ったストーリーに仕立て上げるノンフィクションの名手だ。しかし、書ではさすがにそうもいかなかったらしい。最終的には年間で10億ドルもの利益をあげるようになり、20代で長者番付にも名を連ねた暗号資産の若き天才に幼少期から迫る──というプロローグながら、マイケル・ルイスの取材中にFTXは破産。 その後、サムはFTXの破産と関連した詐欺やマネーロンダリングを

    無限大のドルを求めた果てに逮捕された男の転落記──『1兆円を盗んだ男』 - HONZ
  • 『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』著者、小林照幸にあの頃のこと訊く - HONZ

    死の貝:日住血吸虫症との闘い (新潮文庫 こ 28-2) 作者: 小林 照幸 出版社: 新潮社; 文庫版 発売日: 2024/4/24 小林照幸『死の貝 日住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版されたが、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸のを”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化されたのも20年以上時間が経ってからだし、こんなに注目されることってある?と不思議になりました。どうして突然文庫化されたんですか? 小林 それは新潮社さんからご説明頂きましょうか。 編集部 もともと新潮社の営業部と未来屋書店で、月に一回、情報交換の定例会議をしています。そのなかで女性書店員さんが「そういえ

    『死の貝 日本住血吸虫症との闘い』著者、小林照幸にあの頃のこと訊く - HONZ
  • 『シャーロック・ホームズの護身術 バリツ 英国紳士がたしなむ幻の武術』その正体とは? - HONZ

    「明鏡止水 武のKAMIWAZA」というNHKの番組をご存知だろうか。格闘家でもある俳優の岡田准一が司会を務め、武道各流派を率いる一流の武術家たちが集結し、真髄を語り秘儀を披露していく。録画をして繰り返し観るほど私の好きな番組だ。 『シャーロック・ホームズの護身術バリツ:英国紳士がたしなむ幻の武術』には技の説明のため120点を超える写真が掲載され、中には袴を穿く人物が登場している。動いている姿を見てみたいという欲望が沸き上がる。この番組で実演してくれないだろうか。 「バリツ」という格闘術が一般に有名になったのは、ひとえに〈名探偵シャーロック・ホームズ〉シリーズの「空き家の冒険」で、宿敵のモリアーティ教授の死闘を回想したこのシーンからだ。 ―崖っぷちから落ちかけたぼくたちは一瞬ふたりそろってよろめいたんだ。でもぼくは日の格闘術であるバリツを少々かじっていて、何度もそれに救われたことがあって

    『シャーロック・ホームズの護身術 バリツ 英国紳士がたしなむ幻の武術』その正体とは? - HONZ
  • 『励起 仁科芳雄と日本の現代物理学』を読む - HONZ

    みなさんは、仁科芳雄という人物をご存知だろうか? 物理学をある程度学んだ者なら必ず知っているし、物理学でなくても、理系の研究者なら、ほぼ間違いなく知っているだろう。わたしも一応は知っていた。「仁科記念賞」という、原子物理学とその応用に関する栄誉ある賞があるし、教科書には「クライン=仁科の式」というものが載っている。仁科は理研(理化学研究所)の人であることや、サイクロトロンを作ったことや、第二次世界大戦中はいわゆる「ニ号研究」をやっていたこと、そして戦後は学術会議の創設に関わったことなども知っていた。(恥ずかしながら書を読んではじめて知ったのだが、いわゆる原爆研究とされる「ニ号研究」というプロジェクト名は、「2」号研究ではなく、仁科から取ったカタカナの「ニ」号なのだそうだ! わたしはそんなことも知らなかった!) というわけで、わたしとしても仁科のことを多少は知っていた、と言えなくもない。だ

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  • 『無人島のふたり』余命宣告された作家の最期の日々 - HONZ

    訃報はいつだって突然だ。著名人が亡くなると、生放送中のスタジオに報道の人間が原稿をもって駆け込んでくる。速報は一刻も早く放送するのが鉄則だが、そこに記された名前に驚き、思わず足が止まってしまうことがある。訃報にあらかじめ心の準備をしておくことなんてできない。誰かの死に慣れることはこの先もきっとないだろう。 山文緒さんが亡くなったという報せも突然だった。 2021年10月13日、膵臓がんのため死去。58歳だった。 山さんは前年、7年ぶりとなる長編小説『自転しながら公転する』を発表したばかりだった。地方のショッピングモールで働く32歳の女性を主人公にした同作はまぎれもない傑作だった。 NHKの『朝イチ』だったと思うが、軽井沢のご自宅で、キツツキが家の外壁に開けた穴をリポーターに見せたりしながらインタビューに答えていたのをおぼえている。その時の楽しそうな表情がとりわけ印象に残っているのは、山

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  • 『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ

    「その悩み、○○学ではすでに解決しています」みたいなタイトルのを見かけることがある。あなたが日々の仕事で直面する悩みや課題は、すでに最新の学説や理論で解決済みですよ、というわけだ。 だが当にそうだろうか。最新の学説や理論を応用すれば、世の中の問題はたちどころに解決するものだろうか。 著者は政治学を専門とする大学教授である。「話すも涙、聞くも大笑いの人生の諸々の事情」があって、47歳にして人の親となった。小学校のママ友やパパ友のほとんどは干支一回り以上年下だ。そんなママ友からある日「相談があります」と呼び出され、いきなりこんなお願いをされた。 「来年、PTA会長になってくれませんか?」 まさに青天の霹靂だ。驚いた著者は必死に出来ない理由を並べ立てる。「フルタイム・ワーカー」だから無理!「理屈っぽくて、短気で、いたずらにデカいジジイ」だから無理!ところがママ友は決してあきらめず、最後は情に

    『政治学者、PTA会長になる』これぞ街場の民主主義!政治学者が世間の現実と向き合った1000日の記録 - HONZ
  • やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? - HONZ

    やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? アバウトにしてアナーキー。ざっくりまとめるとこうなるのだろうか。なんだかやたらと凶暴でハードボイルドな室町時代。日人は律儀で柔和などという言い方は絶対に通用しない。室町時代の後半は戦国時代だったから、というわけではない。武士たちだけでなく、農民や女性、僧侶までもがなんだか殺気立っているのだ。まずは『びわ湖無差別殺傷事件』から。 びわ湖がくびれていちばん細くなっているところ、琵琶湖大橋のかかっている西側に堅田という町があった。というか、今もある。そこに兵庫という名の青年がいた。“他の堅田の住人と同じく、周辺を通行する船から通行量をとったり、手広く水運業を行ったり、場合によっては海賊行為を働いたり“ と、とんでもない多角経営を営んでいた。湖なので、海賊ではなくて湖賊だが、まぁ、それはよ

    やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? - HONZ
  • 『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ

    何か不測の事態を前にすると、読みの習性でついに手が伸びてしまう。 中国・武漢で発生した原因不明の肺炎に世間が注目し始めた頃、読み直さねばと書棚からひっぱり出したのは、『パンデミックとたたかう』というだった。 このは、SF作家の瀬名秀明氏が東北大学医学系研究科教授(当時)の押谷仁氏と新型インフルエンザについて議論を交わしたものだ。2009年に出ただが、押谷氏の発言に教えられるところが多く、その名が強く印象に残っていた。 付箋を貼っていたところをいくつか抜き出してみる。 「感染症の危機管理の基は、わからないなかで決断をしなくてはいけないことです。その最終的な判断は、やはり政治家がすべきだと私は思います」 「ウイルス性肺炎は、現代の医療現場でも、治療するのが非常に厳しい肺炎です」 「重症者が多発した場合の治療の課題は、医療体制の問題として、日はICUのベッドや人工呼吸器が限られてい

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  • 世紀の奇書?『土葬の村』は貴重な民俗的資料である - HONZ

    埋葬には宗教による違いがある。イスラム経は土葬のみだし、キリスト教でも死者の復活という教えがあるので土葬が望まれる。国、地域別の火葬率は、米国52%、イギリス77%、ドイツ62%、フランス40%、イタリア24%、カナダ71%、ロシア10%、台湾97%、香港93%、韓国84%、タイ80%(2016年、2017年の資料)である。日では、いまやほとんどが火葬なので、我々から見ると意外なまでの高率だ。 明治時代には、火葬は仏教僧が推進するものであるという神道派の主張により、二年後に廃止されたとはいえ「火葬禁止令」が布告されたことすらある。しかし、2017年の統計では、99.97%が火葬で、残りの0.03%が土葬であるにすぎない。およそ4000人ほどなので、すごく少ないけれども、同時に、まだそれくらい残っているのかという気がする数字である。 『土葬の村』は、タイトルのとおり、土葬の習慣の残る村の記

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  • 音楽で生きる、東京で生きる。『調子悪くてあたりまえ 近田春夫自伝』 - HONZ

    近田春夫を知っている人は、すでに読んだにちがいない。知らない人は、いますぐ読んでほしい。音楽で生きる、東京で生きる、その2つを味わえる。日のロック、パンク、ヒップホップ、さらにはJ-POPやCM音楽まで網羅した音楽史であり、東京でクールに生きてきた大人の足跡を体感できるだろう。 タイトル「調子悪くてあたりまえ」は、ビブラストーンの名曲からとられている。ご存知ない方は、動画サイトで確かめよう。そのあとで、曲名の意味、そして、ビブラストーンというバンドについて、ぜひ書を開いてもらいたい。 著者は、1951年2月25日、世田谷に生まれる。NHKに勤めたあとTBSに移る父親と、音楽教師の母親を持つ。IQ、知能指数169をたたきだした天才児だったので、慶應幼稚舎に入る。 「僕は春夫君とやっていく自信がないんです・・・」と担任教師が嘆くほどの多動症で、人を笑わせるのが好きだった。にぎやかな場所にい

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  • 『国道16号線 「日本」を創った道』 - HONZ

    私が住む東京都町田市の小田急町田駅の東口の広場には「絹の道」という石碑がある。それをゼミ生に見せてからJR横浜線の下り線に乗り、八王子に向かう。その車中で、なぜ八王子と町田を結ぶこの街道が絹の道と呼ばれるか、学生たちに説明する。 このあたりの多摩丘陵の地形地質が桑畑に向いていて、それが地域の養蚕業を盛んにしたこと。そうして絹製品の産業基盤がこのあたりにあったところに、幕末期に盛んになった生糸輸出で、山梨や長野、群馬の生糸がいったん八王子に集まり、そこから輸出港横浜まで運搬されるルートができたこと。その流通加工拠点であった八王子には富が蓄積されたし、横浜までは生糸を馬の背に乗せて運ぶにも一日では歩ききれないので、行商人たちがその中間地点の町田で一泊してお金を落としたこと。横浜で生糸を売り捌いて懐が暖まった行商人たちが、おそらく帰路についた一泊目の町田で羽根を伸ばしたので町田には町の規模の割り

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  • 世界の食文化史がひっくり返る大発見!『幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた<サピエンス納豆>』 - HONZ

    “日以外でも納豆がべられていたの?納豆にこんなにすごい背景があるなんて!”と衝撃を与えた『謎のアジア納豆 そして帰ってきた〈日納豆〉』から4年。前作で解き明かしきれなかった異国の納豆の正体を、完全に明らかにした驚天動地のノンフィクションがいよいよ発売された。 発売直前のある日、新潮社の会議室を高野秀行さんは一日ジャックしていた。リモートを含め取材が5。新型コロナ禍で酷暑のなかでも注目度は相変わらず高い。そしてご人のテンションもアゲアゲである。すばらしき納豆の世界へようこそ! ー『幻のアフリカ納豆を追え!』出版おめでとうごさいます。それにしても日、朝鮮半島、東南アジア、びょーんと飛んで西アフリカで同じ発酵品がべられているのは面白いですね。なんでなんでしょう? 高野 :それを解き明かしたくて、このを書いたんですけどねw 日人だけがうま味を感じているわけじゃないってことですよ

    世界の食文化史がひっくり返る大発見!『幻のアフリカ納豆を追え!―そして現れた<サピエンス納豆>』 - HONZ
  • これは民主主義崩壊への序曲なのか 『公文書危機』 - HONZ

    昨年、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞した、毎日新聞の好評連載「公文書クライシス」。書はその取材班が、取材の手の内を明かしながら、ふたたび公文書の闇を照らし出したレポートである。記者たちは今なお取材を続けており、その追及は凄みを増している。記事を読んだ方にも、間違いなく一読の価値があるといえる。 またもう一つ、書の大きな読みどころとなっているのが官邸と記者との生々しいやりとりだ。さすが、記者の手でまとめられた文章だけあって、構成と筆致が素晴らしい。森友や加計、桜を見る会の問題で、公文書に対する疑心暗鬼が生じている私たちにとって、今まさに読んでおくべき一冊だ。いきなり結論めいて恐縮だが、その現状について書にはこう書いてある。 公文書管理法は第1条で「公文書は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用しうるもの」と定めている。つまり、

    これは民主主義崩壊への序曲なのか 『公文書危機』 - HONZ
  • 『愛という名の支配』わたしたちを幸せにするフェミニズム - HONZ

    田嶋陽子さんは、討論バラエティ『ビートたけしのTVタックル』への出演で高い知名度を得た、日を代表するフェミニストだ。時は1990年代、平成がはじまったばかりのころ。フェミニストがどういう人なのか、フェミニズムがなんなのかまったく知らなかった当時のわたしも、この番組でのやりとりを面白おかしく見ているうちに、「フェミニスト=田嶋陽子」と同義語のようにすり込まれていった。そしてそのイメージは、世間一般にも深く浸透した。 なにしろキャッチーな存在だったのだ。おかっぱヘアにメガネの組み合わせ、低く落ち着いた声できっぱりと物申し、相手があのビートたけしでも一歩も引かない。議論に熱くなっているときの険しい表情と同じくらい、「ガハハ」という擬音語がしっくりくるビッグスマイルも印象的だ。誰とも似ていない強いキャラクターは、テレビが絶大な影響力を持っていた時代、圧倒的な拡散力でもって日中に広まった。その人

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  • 『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』緩くつながり、ときに裏切り、香港で見たアングラ経済の姿 - HONZ

    『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』緩くつながり、ときに裏切り、香港で見たアングラ経済の姿 香港の中心街に立地するチョンキンマンション。安宿が密集するこの建物は、沢木耕太郎の『深夜特急』に登場したこともあり、今でも日からの旅行客を引きつけている。 2016年に香港の大学に客員教授として所属した著者は、ひとりのタンザニア人、カラマと知り合う。彼は「チョンキンマンションのボス」と名乗った。 「ボス」の日常は怪しさに満ちあふれていた。毎日、昼ぐらいに起き、夜な夜な仲間とたむろ。仕事は中古車ブローカー。インターネットを使って母国と香港の業者の取引を仲介している。大して働いている様子はないものの、月に数万ドル稼ぐこともある。 経済人類学者の著者が彼らの商慣行や起業家としての側面に関心を寄せるようになったのは自然の流れだった。書は国家の制度などに守られない彼らがいかに自

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  • 『蜂と蟻に刺されてみた 「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ』 - HONZ

    ハチやアリの毒針は、そのライフスタイルを映し出す鏡らしい。ひとくちにハチ・アリ類と言っても、じつに多彩で、みな独特の生き方をしている。しかし、その毒針の機能は、見事なくらいその生存戦略にぴったり合っているのだ。毒針の痛さとライフスタイルの、切っても切れない関係について語ったのが書である。 書の著者は、虫刺されの痛みのスケール(尺度)を作った功績で2015年にイグ・ノーベル賞を受賞した、ジャスティン・シュミット博士である。1947年生まれ。昆虫毒の化学的性質の専門家だ。2006年まで、米国農務省のカール・ヘイデン ミツバチ研究センターに勤務し、現在は、アリゾナ大学でハチ・アリ類やクモ形類の化学的および行動的防御機構の研究を行なっている。 シュミット博士によると、虫刺されという現象の基特性は2つ、痛みと、生体に対する毒性だという。そのうち、生体毒性のほうは数値化しやすいが、痛みは主観的な

    『蜂と蟻に刺されてみた 「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ』 - HONZ
  • 『謝るなら、いつでもおいで 佐世保小六女児同級生殺害事件』 - HONZ

    正に「青天の霹靂」と、いうヤツである。 何故、人よりホンの一寸ばかし読書が好きなだけの、40過ぎの一介のスタイリストの元に、あの開高健ノンフィクション賞と、大宅壮一ノンフィクション賞の最終候補に残る様な、格派ノンフィクションの文庫版解説という大役が回ってくるのだろうか。 しかも書は、あるファッション・デザイナーの評伝でもなければ、映画や演劇の衣装について考察されたでもない。自身、娘を持つ身としては、胸が抉られ、読む事すら躊躇われるような、痛ましく哀しい事件のノンフィクションである。 この、畑違いとお門違いが同じ皿に盛られてやってきた様なオファーに、正直俺はビビってたじろいだ。「無理です」と、一言電話口で言葉を発せば、こうして身分不相応を完全に自覚しつつ、言い訳めいたフレーズを羅列しなくても済んだかもしれない。 だが、僕は散々迷ったフリをしながら、必ず書かねばなるまいと思ってもいた。そ

    『謝るなら、いつでもおいで 佐世保小六女児同級生殺害事件』 - HONZ
  • 九歳でロケット、十四歳で核融合炉を作った「天才」──『太陽を創った少年』 - HONZ

    この世には「ギフテッド」と呼ばれる神から与えられたとしか思えない才能を持つ凄い人間たちがいる。そのうちの一人がアメリカ、アーカンソー州のテイラー・ウィルソン少年だ。彼は9歳で高度なロケットを”理解した上で“作り上げ、14歳にして5億度のプラズマコア中で原子をたがいに衝突させる反応炉をつくって、当時の史上最年少で核融合の達成を成し遂げてみせた。 彼は核融合炉を作り上げるだけで止まらずに、そこで得た知見と技術を元に兵器を探知するための中性子を利用した(兵器用核分裂物資がコンテナなどの中に入っていると、中性子がその物質の核分裂反応を誘発しガンマ線が出るので、検出できる)、兵器探知装置をつくるなど、その技術を次々と世の中にために活かし始めている。書は、そんな少年のこれまでの歩みについて書かれた一冊であり、同時にそうした「少年の両親が、いかにしてのびのびと成長し、核融合炉をつくれる環境を構築してき

    九歳でロケット、十四歳で核融合炉を作った「天才」──『太陽を創った少年』 - HONZ
  • 『サルは大西洋を渡った──奇跡的な航海が生んだ進化史』 大海原という障壁を越えて進出する生物たち - HONZ

    「ありそうもないこと、稀有なこと、不可思議なこと、奇跡的なこと」。生物地理学者のギャレス・ネルソンはかつてそんな言葉でそれを嘲笑したという。だが実際には、どうやらそれは生物の歴史において何度も生じていたようだ。それというのは、生物たちによる長距離に及ぶ「海越え」である。 書が挑んでいる問題は、世界における生物の不連続分布である。世界地図と各地に生息する生物を思い浮かべてほしい。大西洋を挟んで、サルはアフリカ大陸にも、南アメリカ大陸にも生息している。また、「走鳥類」と呼ばれる飛べない鳥たちは、南半球の4つの隔たった地域に分布している。さらに、ガータースネークはメキシコ土で見られるが、そこから海で隔てられたバハカリフォルニア半島の南部にも生息している。 そのように、系統的に近しい多くの生物が、海などの障壁で隔てられた、遠く離れた地域に生息している。しかしそうだとしたら、彼らはいったいどうや

    『サルは大西洋を渡った──奇跡的な航海が生んだ進化史』 大海原という障壁を越えて進出する生物たち - HONZ