序文 岡和田晃氏が主催するAGSというゲーム批評blogにおいて公開された「傷だらけの偉大な負け組に捧ぐ:「役割演技式競技」における「ヒーロー」とは何者であろうか?」というエントリについて、主に倫理的問題から対論を展開してみたい。 このエントリにおいては、ある種の英雄像――すなわちある事態において、事態に関わる全員が救われるように行動し、それに成功する者と対置して、ある事態において限定的なリソースしか持たないがゆえ、常に誰かを犠牲にすることでしか他の誰かを救えないという無力さを抱えつつも、なお最善を尽くし犠牲者の死を背負ってゆく者の姿を指し示し、それを称揚しているように、ぼくには思える。それは基本的に了解可能な概念であり、多くの人達がそのような人物像に学び得るだろう。特に、有限のリソースしか持たずにゲームに向かうプレイヤーたちが、目的達成のため「何を切り捨て、何を取るべきか」という決断をす