彼女と家に帰る途中だった。 午後6時過ぎに大学を出てバスに乗ると、運よく降車客と入れ違いで、二人並んで座席に座ることができた。最近彼女と会うときは、交代で夕飯を作るのが決まりになっている。その日は私がホストで夕飯を作る日で、ビーフシチューの予定だった。あんまりいい肉は買えないから、下ごしらえをして冷蔵庫に入れてある。ワインのセレクトは彼女に任せた。 彼女はその日あったゼミの話を切り出して、教授の罵倒に励む。木曜日の家路はこうと決まっているので、私はうんうんと分ったように頷いてみせる。 バスに揺られていると、一人の男性が乗ってきた。男性は三十代半ば、少し太めで額が大きく禿げ上がっており、ほんのりと汗をかいている。やたらと短い短パンから伸びる脚は太い毛に覆われている。 男は私たちの前に立ってつり革に捕まっていたのだが、一分もせぬうちに膝をガクガクと震わせ始め、重力に対して不自然に過敏な動きを始