長野県戸隠村。長野県北中部、新潟県にもほど近いこの場所は、古来より様々な神話・伝説に彩られた、信仰の地であった。そもそも「戸隠」の由来は、天照大神の岩戸隠れにおいて、天手力雄命(アメノタヂカオノミコト)が岩戸を取り除いた際、その岩戸が地上に降ちてきて山となったのにちなむという。中世には戸隠山とその周辺は山岳信仰のメッカとなり、修験道が栄えた。近隣の飯綱(いずな)山は、妖術「飯綱の法」で有名な飯綱信仰発祥の地でもある。それらを受けて、後には忍者の隠れ里ともなった。 そうした戸隠の伝説・歴史の中でも、現在ではさほどの知名度はないが、かなり古い部類に入るのが鬼女「紅葉」の伝説だ。謡曲「紅葉狩」にうたわれ、歌舞伎の題材ともなった紅葉伝説。まずはその謡曲のあらすじから見てみよう。 秋も深まった戸隠山。そこに余五将軍平維茂(たいらのこれもち。平安中期の武将で、陸奥守、鎮守府将軍などを歴任。陸奥の豪族・