耳を疑った。長崎県の離島、対馬の北部に住むエリさん(28)=仮名=は昨年3月、出産予定日を3カ月後に控えた妊婦健診で「ここでは産めなくなります」と告げられた。 かかりつけの上対馬病院が分娩(ぶんべん)の取り扱いの中止を決めたため、対馬いづはら病院で産まなければならなくなった。約80キロも離れた場所。「まさか、産める場所が消えるなんて」 不安だったが、どうしようもなかった。予定日前日の6月4日、早めに病院へ向かおうと、夫の運転する車で出発する。間もなく陣痛が始まった。どんなに急いでも1時間半はかかる。必死で座席につかまり、痛みに耐えた。到着と同時に気を失い、破水。頭が出ないように抑えられながら、分娩室へ運ばれた。 荷物を抱えた夫が部屋に駆けつけた時には、既に生まれていた。「無事だったから良かったけれど、あんなに怖い思いをして…。この環境ではもう産みたくないって思ってしまう」とエリさんは振り返