運命のボタン [著]リチャード・マシスン[掲載]2010年5月23日[評者]横尾忠則(美術家)■死の13階段のよう、恐怖と快感 「横尾さんならどう書評するのか、興味がありますね」 「リチャード・マシスンってどんな作家なんですか?」 「まあ、ホラー文学ですね」 本書は、3月まで書評委員として席を並べた作家・瀬名秀明さんの推薦本で、僕はホラー文学なんて一度も読んだことがなかったけれど、これが実に面白い! テンポの速い会話と、視覚表現はまるで映画だ。特に人間の五感や自然現象への眼差(まなざ)しが鋭く、ぐいぐいと肉体感覚に攻撃を加えてくる。だから冒険小説でもないのに血が湧(わ)き肉が躍り出す。さらに体の奥で惰眠をむさぼっていたアンファンテリズム(幼児性)がにわかに目を覚まし原初的な死の恐怖と快感がギシギシ音を立てながら開扉するその感覚がたまんない。 全13編の物語は、死の13階段を一段ずつ外してい