極彩色の玄室 カザンラクの墳墓の玄室の天井に描かれたフレスコ画。使用人や音楽家や戦車に囲まれて宴席につく夫婦が描かれている。(AGE FOTOSTOCK) 第二次世界大戦中の1944年4月、ブルガリアの都市カザンラクの近郊で驚くべき発見があった。塹壕を掘っていたブルガリア軍兵士たちが、鮮やかなフレスコ画で飾られた墓を発見したのだ。 後に、この墳墓は孤立した遺跡ではなく、失われた古代王国のネクロポリス(共同墓地)の一部であることが判明する。1979年、「カザンラクのトラキア人の墳墓」はユネスコ世界遺産に登録された。 紀元前5世紀に生まれた王国 古代トラキアは、現在のブルガリアのほか、トルコ北西部やルーマニア南部、セルビア南東部に当たる地域で、小さな部族国家に分かれていた。それぞれの部族は、ペルシャやアテネ、後のマケドニアといった強大なライバル国に囲まれ、同盟を結んだり抗争したりしながら暮らし