雪崩が起こりうる冬山での遭難はおそろしいが、夏にもリスクがある。2009年7月、夏山登山としては「過去最悪」とされた北海道大雪山系のトムラウシ山での遭難事故について、登山家で登山教室「無名山塾」主宰(現在は顧問)の岩崎元郎氏による寄稿(「文藝春秋」2009年9月号)を掲載する。(全2回の1回目、後編に続く) (※肩書・年齢等は記事掲載時のまま) ◆ ◆ ◆ 中高年者が犠牲となった 7月16日、北海道大雪山系のトムラウシ山で9名、美瑛岳で1名が遭難、死亡した。夏山登山としては過去最悪の遭難事故を僕が知ったのは、北欧の屋根、ノルウェーのヨートゥンハイメン国立公園をハイキングしているときだった。 僕は現在64歳。山に魅せられて、50年近く経つ。NHK教育テレビで「中高年のための登山学」(1995)という番組を持ったのをきっかけに、中高年者への登山普及に心を砕いてきた。ノルウェーにも、僕が企画する