ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2025年3月号より転載。 「現地」と「現物」が大切だと私は思っている。今年は戦後80年の年だが、戦争体験者は年々減少、近い将来、戦争の記憶を語れる人はいなくなるだろう。その時、エモーショナルなレベルで文献や映像資料以上の役割を果たすのは現物だ。記憶、特に負の記憶を伝えるのにブツは欠かせないのである。 重要なのはまず、当時の現物資料を収集、展示した資料館である。広島平和記念資料館や長崎原爆資料館が代表的な例である。同じくらい重要なのが往時の遺構で、代表例は広島の原爆ドームだ。ちなみに、長崎にこの種の象徴的な遺構は残っていない。被爆した浦上天主堂が1958年に解体された