〈深呼吸、深呼吸。精神集中。今日もいける。私は可愛い。これで決して、自分が「六畳一間のボロ屋敷」からやってきた住人であることは、世間様にはバレないはずである。今日も色々とキメていこう。仕事とか恋愛とか、人生とか、色々。〉 このあと、28歳の亜希子は突然、通勤途中の駅のホームから動けなくなる。一時的なパニック症状と診断を受けて精神科に通うも、その後は通勤もままならなくなり、退職。会社員としての食い扶持は途絶え、資産は手元にある10万円のみとなった。 『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)の著者で、かつてSDN48として紅白出場経験もある大木亜希子さんの実話である。 この後、大木さんは職なし金なし彼氏なしの「詰んだ」状況からわずか1年半で2冊の本を刊行。『小説現代』(2020年8月号)に書き下ろし小説を発表し、文筆家としての道を歩いている。この驚異的な回復の