夕方。舞子は課長の衣笠に会議室に呼ばれた。部課長会議が終わってからの、このタイミングの呼び出し。なんとなく嫌な予感がする。舞子はとぼとぼと衣笠の後を追う。 「あのね、並木さん。購買システムを、来年度からグループ子会社にも順次展開することになったよ…」 衣笠は毛むくじゃらの太い中指で、眼鏡のブリッジを何度か上げ下げした。たまにその仕草を見かける。言いにくい話を切り出す時の手癖のようだ。 「まだ安定運用できていないのに、い、いきなりグループ会社に展開ですか?」 舞子は思わず言葉を詰まらせる。 ――まだ1年、回してもいない(かつトラブルだらけの)未熟なシステムなのに、いきなり横展開しろだなんて…。まったくお上は何を考えているのだろう。冗談じゃない! …と、舞子は深呼吸して怒りの言葉を飲み込んだ。少し前までの舞子だったら、ここで目の前の衣笠にキンキンと盾突いたに違いない。しかし、そうしたところでど