浩之君は1年以上の放浪の末、児童福祉施設のあった森にたどり着きました。 25年を経て、建物は古ぼけた姿で残っていました。しかし、そこはもう施設ではなく、老夫婦の住居になっていました。画家の高見乾司さん(70)と、染織家の横田康子さん(79)。2人は森に自生する草木を使って薬草茶や布を作り、生活していました。 事情を話すと「しばらく泊まっていっては」と勧められました。 それから毎日、高見さんは森に連れ出してくれました。どの草に薬効があり、どんな色に染められるのか。夜空の星で狩猟を占う言い伝えや、何千年もの歴史が詰まった神楽の魅力……。横田さんは、草木から糸を作る方法を教えてくれました。時間を忘れて聴き入りました。 2人にはささやかなプロジェクトがありました。荒れた杉や竹の林に手を入れて、ハイキングコースをつくるのです。子どもたちを集めて工作教室を開いたり、秘密基地を作ったり。10年前から少し