いまこれを読まなければ生きていけない、と思いながら前のめりに本を読んでいた。中学時代に抱いていたそんな想いを、食品サンプルの檸檬に託していた。小説家・磯貝依里さんによるエッセイです。 中学生の頃、糊のゆるんだ制服の紺プリーツスカートのポケットに、檸檬をひとつしのばせていた。 スカートの右ポケットにはリップクリームとあぶらとり紙、それからソックタッチの三点セットが入っていて、檸檬を隠していたのは左側のポケットだった。檸檬はてのひらにおさまるほどのサイズだったけれどそれなりに大きかったから、そんなわたしを遠くから眺めると、きっといつも左下半身だけがポコンと奇妙にふくらんでいたのだと思う。 ■騒がしい中学生活の水底で、ひとり本を読んでいた わたしの通っていた中学校は市の全体を望む山の中腹にあった。山のてっぺんに建つ小学校と山のふもとに建つ小学校のふたつから生徒の入学する中学で、それはちょうど、上