(みすず書房・3456円) すべては想像から始まる 現代アラブ文学を専門とする著者による、パレスチナ問題をめぐるエッセー集である。封鎖が長く続き悲惨な状況に陥っている現代のガザのことを考えただけでも、明るい内容になるわけがないが、それでも希望に貫ぬかれているところが心を打つ。本書は、私たちが普通「文学」と考えるものについて論ずる部分は少ないが、未来を切り開く想像力の営みこそが文学だということを教えてくれる。 特に際立っている著者の姿勢は、ともかく現場に足を運んで、自分で見聞し、現地の人々と直接話をすること。分厚い辞書をひきながら机に向かって静かに本を読む、といった研究者の姿からはほど遠い。本書はある意味では、エジプト留学時代から数えて三〇年以上になる著者のパレスチナ探訪の経験を通じての自伝でもあり、その自伝がそのまま激動と惨禍に彩られた現代パレスチナの歴史にもなっている。本書のあちこちに、
![今週の本棚:沼野充義・評 『ガザに地下鉄が走る日』=岡真理・著 - 毎日新聞](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/3df7b229795ccd713044b83f76865c4787066818/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn.mainichi.jp%2Fvol1%2F2015%2F12%2F18%2F20151218hrc00m010001000q%2F9.jpg%3F2)